目醒め-1
「おはようございまーす!」
毎日変わらず元気に挨拶をする。私が決めた私のルール。天気が悪くても、道路へ吐き捨てられたガムを踏んだとしても、それが──────例え酷い痴漢行為を受けた次の日だとしても…。
※
私は家へ帰るなりすぐにシャワーを浴びた。
太腿に纏わり付く粘液と、生臭い栗の花の香り。ボディソープを4,5回プッシュしても足りない。鼻の奥まで臭いがこびり付いているのかもしれない。
不潔。不潔。不潔。
髪にまで臭いが付いていそうで、シャンプーまで必要以上に使ってしまう。そう、痴漢の唾液も耳や首筋周りでべとべとになっているはずだ。
気持ち悪い。
気持ち悪い!
気持ち悪い!!
「本っ………当にあり得ない!」
シャワーを頭から浴びながら私は一人叫ぶ。
冷静になって考えたら普通ではあり得ないことを私は受け入れていた。嫌悪感もあった。不快感もあった。それなのに何故私は痴漢に好き放題させていたのか。
あの痴漢は私の体を隅々まで触り、愉しんだ。そう、愉しんで、射精した。あの…男の象徴(シンボル)を勝手に握らせて、ビクビクと細かく震わせて、硬くて、太くて…。
「あんなモノが…ここに…」
私は反芻する。
少し前、私の太腿と股を擦っていたモノ。
熱かった。男の体温を私は股座(またぐら)で感じていた。たっぷりと濡らしていたソソ(注釈:女性器)は口を開ききっていて、痴漢の硬くなったそれを唇で優しく食む(はむ)ようにピストン運動を手伝っていた。
あれだけ濡れていたら、一歩間違えただけで挿入っていたかもしれない。
………もう一歩、間違えてたらここに………
「んっ…」
熱い。中指と薬指を挿れる。
私の膣は熱を持っている。この期に及んで、オトコを受け入れる準備が出来ている。
「はぁっ…あっ、いやっ」
壁に手をつき、後ろへお尻を突き出す。
狭い満員電車の中で、痴漢は下卑た嗤いを浮かべながら私の腰を掴む。兇悪な男根は私の下の口に当たり、入口を先っぽで焦らすように擦る。
挿入れるぞ、挿入れるぞ…と言うように。
「だめ、こんな所で…あぁっ」
痴漢の逸物が私の奥深くへ捻じ込まれる。私は人差し指を噛みながら、背後からの突きに甘い声を漏らしてしまう。
揺れる電車内で後ろから犯され、衆人環視の中で見世物のようになっている。
羞恥心で顔から火が出る想いをしながらも、それでも私は痴漢から与えられる刺激に興奮してしまっている。
久しぶりの男の肉の味。力強いそれは私の膣内(なか)を何度も掻き乱し、体の中から屈服させようとしている。振り払うほどの余裕は無い。足腰は役に立たなくなるほど力が入らず、むしろ抜けていく。立っているだけで精一杯。
私の膣内いっぱいに詰まっているオトコそのものが、私の心まで支配していく。
「だめ、イく…イくっ」
私の絶頂に合わせるように、痴漢は私の膣内に精を吐き出す。本気の射精…。女を受精させる本気の─────
※
「─────ゃん?サクちゃん!」
「えっ?あ、はい!」
デスクの前に立っていたのは樋口だった。
私はまたどうやら妄想の中に居たみたいだ。とは言っても昨日の自慰を思い出していただけなのだけど…我ながら情けないというか、恥ずかしいというか。
「なんか、すっげぇ色っぽい顔してたけど、なに?誘ってんの?」
「な、何でもないです!あっち行って下さい!」
やだ、顔に出てた?頭の中は覗かれることないけど、なんか後ろめたい気持ちになった。
ここ最近本当に駄目だ。妄想が止まらない。彼氏の一つでも作らないと………これじゃただの欲求不満じゃないか。自分でも病気を疑うレベルだ。
「あっち行ってはないっしょ?せっかく頼まれてた資料用意したのに」
樋口は不貞腐れながらクリップで留められた資料をデスクの上へ置いた。
「え?あ…ありがとう」
「どーいたしまして。それでこの資料なんだけど幾つか注意点があって」
「注意点?」
「まぁサクちゃんなら平気だとは思うんだけど…ちょっといい?ここなんだけど────」
樋口は後ろへ回ると私の背後から右の肩越しに体を寄せてきて、背中から回した左手で私の胸を揉んできた。
「ちょっ────」
「しっ」
「えっ?」
「静かに…」
昨日から様子がおかしかった樋口は、更におかしくなっていた。