@息子の入学-1
今日は息子健一の高校入学式だ。
思えば大変な中学3年間であった。
虐められ不登校になって出席日数もぎりぎりでの卒業であった。
3年生の時の担任の協力と涙ながらの母親の説得のたまものだと思っている。
だからその地区最低の俗にいう誰でも入れる高校だったが詩織は嬉しかった。
入学式が終わり父兄は各教室に集められた。
PTAや父母の会の担当を決めるためだ。
教室に入ったとたん詩織の身体は凍り付いた。
3年間健一を虐めぬいた権藤剛志の母親の姿がそこにあったからだ。
思えば悪ガキの剛志が入れる高校はここ以外には考えられない。
もっと早く気付くべきだった。
でも気付いたとしても息子の健一もここにしか入れないのだ。
暗い気持ちで帰宅途上、中学校に寄ってみた。
担任にお礼を言った後相談してみた。
「うーん。もう私の手も届きません。木村君が自分で立ち向かうしか方法はないと思います。
このまま社会人になっても常にハラスメントを受ける側になってしまいますよ。
少しの間ほっておくのも一つの方法だと私は思います。」
言われてみればその通りだ。
「もう息子の事で思い悩むのは止そう。」と詩織も腹をくくった。
不思議なことが起こった。
健一が毎日溌溂として登校していくのだ。
何か性格も明るくなったような気がする。
昨日なんか3人の友達が自宅へ遊びに来た。
過去にはなかったことだ。
次の日二人っきりの夕食をとりながらそれとなく尋ねた。
「どうしたの?権藤君おとなしくしているの?」
「いや。今クラスの今井君が虐められているよ。子分が10人ほどいるから誰も逆らえないんだ。担任も見て見ない振りさ。」
虐めの対象がよそへ行っただけで相変わらず権藤剛志は無法な学園生活を送っているようだ。
詩織はそれでもよかった。
数年ぶりの幸せな家庭生活であった。
しかしそんな安寧の日々も夏休みが終わった時に急変した。
虐めの対象だった今井君が逃げるようにして転校してしまったのだ。
そして権藤の牙は健一に向かってきた。
その執拗なイジメに耐え切れず健一は再び不登校になってしまった。
息子の事で思い悩むのは止そうと決めていた沙織は目をつむって彼を無視した。
1週間が過ぎ十日目に達した頃から部屋に閉じこもったまま食事にも出てこなくなった。
さらに一週間が過ぎた。
詩織の我慢の限界もここまでだった。
担任に相談したところ「そういう事なら学年主任の山本先生を紹介します。」と言って応接室に通された。
県立高校の教師だった詩織には驚くほどの豪華なソファーであり調度品だ。
ドアーがノックされてはいってきた学年主任を見て「あっ」と声をあげてしまった。
元同僚の山本正樹先生だったからだ。
彼も懐かしそうに「驚いたな、木村詩織先生の息子がわが校に入学していたなんて知らなかったよ。」
山本正樹・・・・・・・・・