盗聴器-2
緒方から、
『了解です、主任。』
とやや落ち着いた声で返って来た。悠子が時計を見ていると山田が、
『主任、男と櫻井さんが立ち読みしてる所に店員が来て止める様に注意したんですが櫻井さんが「買う為に試し読みしてるだけだ、邪魔するな!」と凄んでました。あの風貌ですから、店員は逃げる様に戻って行きましたよ。』
『アジトの男は笑って櫻井さんに話し掛けていました。今も男は立ち読みしています。』
『僕は、この報告を怪しまれるといけないのでコンビニのトイレからしています。』
とやや長い報告をしてくる。悠子は、
【これで時間が稼げるかも】
と思いながら山田に、
『篠山から山田君へ、了解。またコンビニの駐車場の車に戻って男の監視をして下さい。何か動きが有ったら報告して。』
と返答する。山田は、
『主任、了解です。怪しまれるといけないので何か買って店を出ます。』
と返してきた。悠子は、山田の返事を聞きながら、
【大体、余計な一言が入るのよね。】
と笑いながら思った。緒方から、
『主任、引き戸開錠出来ました。中は仕切りの襖が取り外ずされて使用されています。』
『盗聴器の設置場所は、電源の関係でコンセント差し込み口が良いとの事です。これ位の部屋なら十分音が拾えるそうです。』
と報告してくる。悠子は、
『篠山、了解。設置場所は、任せます。中には何が有るの?緒方さん』
と返す。緒方は、同行の技術部の捜査官に設置場所を了承する事を伝えると、
『中には、そんなに大きく無いホワイトボードが3台とパソコンがノートとデスクトップの2台机に置かれています。後は机の隅に小さなテレビが有ります。』
『ホワイトボードには沢山の書き込みと用紙が貼られています。』
と報告する。悠子は、
『篠山、了解。盗聴器設置の時の手順通り、パソコンはそのまま。物は動かさずに写真を出来るだけ沢山撮って!』
『特にその3台のホワイトボード!』
と指示に力が入る。パソコンを下手に触ると中身が消えるだけで無く、詐欺グループに即座に部外者が居る事がバレる場合がある。
物も迂闊に動かすと侵入の形跡を残す事になる。ホワイトボードは予想外の成果になる可能性が有り、緒方はデジカメをマニュアル通り持ち込んでる筈だ。緒方が、
『主任、了解です!出来るだけ撮ります。』
と上ずった声で返す。緒方もホワイトボードが有った事に驚いてる様だ。
それから5、6分経った頃、山田から、
『アジトの男がコンビニのレジに並びました。櫻井さんも続いてます。』
と報告がある。悠子は、
『篠山、了解。』
と言うとインカムに
『設置班、盗聴器は設置出来た?』
と聞く。緒方が、
『設置、今終了しました。』
と言う、悠子は
『了解。設置班直ちに部屋を出て下さい!』
『痕跡を残さない様に、確認!』
と指示する。緒方が
『主任、了解です。直ちに退去します。』
『侵入形跡を残さない様に確認します!』
と返答する。悠子は、
『山田君、男は今どこ?』
と聞く。山田は、
『男はレジが終わり、まだ中で櫻井さんを待っている様です。』
と言い続けて、
『今、男と櫻井さんが話しながら出て来ました。』
と言う。悠子は、
『了解。』
『中間地点の瀬戸さん、男が入り口の手前からアパートの方に見えなくなるまで逐一報告して下さい。』
と指示する。すぐに
『瀬戸です。主任、了解です。』
と返事がくる。緒方から、
『主任、緒方です。今、引き戸に鍵を掛けて増設されたドアに取り掛かっています。』
と報告がある。悠子は、
『篠山、了解。』
と返事しながら、
【設置班が部屋を出るのが間に合わないかも。】
と思い始めていた。悠子は、
『篠山から山田君へ、中間地点担当班、瀬戸さん達に合流して。』
と指示する。山田がすぐに、
『主任!山田、了解しました。』
と返って来た。瀬戸より、
『主任、瀬戸です。男と櫻井さんが話しながらアパートの入り口10メートル前まで来ています。』
と報告する。悠子は、
『篠山、了解。』
と返答しながら、緒方に状況を聞こうと思ったがやめた。焦らせるだけだと思ったのだ。悠子は、
『篠山から、中間地点担当班全員と山田君へ。』
『男がアパートの敷地に入ったら、もしもの場合に備え逮捕の為、あなた達もアパートの敷地に入って。』
『男に気付かれない様に。逮捕は、ぎりぎりまで待つ。私が指示するまで逮捕しない事。』
『逮捕の場合、現場指揮は瀬戸さんが取って!以上よ!』
と指示する。中間地点の捜査官や山田から、
『了解。』
『了解しました。』
と口々に返事がある。瀬戸から、
『今、男と櫻井さんが敷地に少し入った所で話してます。櫻井さんが手前のアパートの階段を上がっていきます。』
と報告がある。悠子は、
『男はどんな様子?櫻井さんを怪しんでる感じは無い?』
と聞いてみる。瀬戸は、
『全然、そんな感じではありません。櫻井さんに笑って手を振っています。』
と返答する。悠子はホッとして、
『篠山、了解。』
『男に怪しまれ無い様にアパートの敷地に全員入って。』
と伝える。その時緒方から、
『主任、緒方です。今、アジトの部屋を出ました。』
と報告がくる。悠子は安堵しながらも、
『篠山、了解。』
『設置班全員、手前のアパートの側面に向かって。』
『男がもうじき、部屋に戻るわ。』
と指示する。