女らしく【07】『温泉と湯煙と油揚げ』-1
ブロロロロ〜…
年代物のバスがオレ達を降ろし、黒煙を上げて走っていく。
次に来るのは明日の昼過ぎだそうだ。
「なあ、大和…此所何処だ?」
「…指示された『宇賀村』なんじゃないか?」
何でオレ達がこんなバスが一日一本しか無いような田舎に来ているのかと言うと………
「ちょっとこの村まで行ってきて」
先週、まだ夏休みも始まったばかりのある日のこと。
前園学園長から依頼が入った。
事情はある田舎の旅館に怪奇現象が起こって客足が途絶えてしまったそうだ。
その旅館は学園長の知り合いが経営してるそうで何とか力になりたいが自らが出向くのは不可能。
代わりにオレと大和で解決してきてほしいそうだ。
まあ、予定も無かったから引き受けたんだけど……この宇賀村はとにかく何にも無い所だ。
「迎えが来るはずなんだけど……」
バス停で待っていると、向こうから一台のトラックが走って来てオレ達の前に止まった。
「蘆屋様と九条様ですか?」
中年のおじさんが意外にも訛りの無い言葉で話し掛けてきた。
「あっ…はい。蘆屋です」
「九条です」
「荷台で悪いですが乗って下さい」
トラックが来た時点でこうなることは予想済みだったけど……さっきのバスの方がかなりマシだったな…
荷台で揺れられること数十分、雄大な山を背負った『彩美館』に着いた。
この旅館、外観もその名に恥じない自然の『彩』と『美』に囲まれた立派なものだった。
「ようこそ、お待ちしていました!」
待ちわびた様に、中から着物姿の女性が出てきた。
30歳前後。落ち着いた雰囲気で着物姿も場に馴染んでいる。
「女将の斎藤です。至らない点もあると思いますが、どうかゆっくりとしていって下さい」
柔らかに答える。
何か…いい人そうで良かった。
事情はおおまかに知っているから、まずは部屋に行こうかな…
そういやぁ、コレって大和と二人っきりで旅行だよな…
もしかして、旅館の人が気を遣って相部屋とか…
まるで新婚旅行みたいに布団も二人で一つとか…
違いますよぉ♪夫婦じゃないですよぉ♪