LESSON FINAL-3
「はぁ…はぁ…」
俺は息を切らしながら、ティッシュを取り、春香の体を拭く。
「せんせぃ…」
「ん?」
「先生の、新しい呼び方思いついたよ。」
「へぇ?何?」
「えへへ…耳貸して…」
「ん?」
俺が耳を寄せると、春香が手をあて、囁いた。
「だ・ぁ・り・ん☆」
「だっ…!…いや、それはちょっとハズい…」
「もう決めたも〜ん☆なんでもいいって言ったでしょ?ね、ダーリン☆」
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パン、パン
「何をお願いしたんだ、春香?」
「え〜?…へへ…ダーリンとの赤ちゃんが元気に産まれますようにって。」
「そっか。じゃあ俺と一緒だな!」
「うん!」
春香と「正式に」付き合いだして約八年半を経て、俺と春香は結婚した。
春香は東京の女子大の法学部を卒業し、この春から法律家の卵として法律事務所で働いている。
奇しくも、俺も春香が東京に出る時に、会社の異動で東京に転勤になったので、俺は春香と示し合わせて、出来るだけ近くの家を借りた。
春香と半同棲をして過ごした四年間は、片手で数えられるくらいではあるが、戦争のような大喧嘩や、
数えることは出来ないくらいの些細な喧嘩は勿論あったけれど、殆どは二人で笑い転げる毎日で、本当に楽しかった。
年の差に加えて、元家庭教師と生徒であったから、当然お互い両親の説得は一筋縄には行かなかったが、最終的には了承してくれた。
籍を入れたのは8月で、今でも、春香の父親のスピーチが忘れられない。
『……です。正直、元家庭教師と結婚する、と言われた時には、たまげました。しかし、彼は誠実だったし、交際は大学に入ってからだ、ということなので彼を信じてみることにしました。
…今思えば…彼が春香の勉強を見てくれ、時には精神的な支えになってくれ、春香は変わりました。明るく、優しくなりました。ある意味で、彼は娘の人生の教師でもあったわけです。これからも、娘の道を明るく照らしていただきたい……』
大学から云々は、話を少しでも円滑に進めるために春香と口裏を合わせていたものだったから胸が痛かったが、春香の父親の言葉は嬉しかった。
俺は春香の光。春香は俺の光。そして、今年……二人の間に新しい命が生まれる。新しい命を二人で照らしていこう……俺はそんなことを考えながら、隣を歩く春香の手を強く…ぎゅっと握った。
〜fin〜