青と赤-3
それから裕也は黙ってしまったから、あたしももう何も言わず、ただ海を見ていた。
周りの家族連れがパラソルやシートを片付けている。終わりの時間が近づいてきた。
「そろそろ帰る?」
こんがり焼けた早苗の言葉に、泳ぎすぎてくたくたといった表情でみんなが頷いた。
「美音」
帰り支度をする中でふいに裕也に呼び掛けられる。久しぶりに名前を呼ばれて心臓が跳ねた。
「絆創膏持ってない?」
「…持ってないけど…どうかしたの?」
少しの間、ほんの2、3秒の間が開いた。
「…さっき足の裏ガラスで切った」
「嘘…!大丈夫?」
傷口を見ようとすると、足をふい、とよけられてしまった。
「悪いけど傷口洗いたいから肩貸してくれない?片足だと転びそうだからさ。他の奴ら片付けしてるし」
水道の所へは結構距離がある。ましてや怪我しているなら拒否するわけにもいかず、あたしは頷いた。
肩を貸して歩く途中、あたし達は一言も喋らなかった。話題なんていくらでもありふれているけど、今のあたしと裕也の溝を埋めることなんてできないから。
駐車場近くの水道に着いた。
それなのに裕也はあたしの肩を掴んだままで、離そうとしない。
「裕也…?」
何も話そうとしない裕也を見上げ、声を掛けた。なんだか裕也の雰囲気がいつもと違うような気がする。
「美音」
「何……」
海の風で髪がそよいで、揺れる。唇には温かい感触。呼吸が奪われて苦しくなる。