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木箱の謎
【ホラー その他小説】

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木箱の謎-1

父が入院して最初の週末に叔母がお見舞いに来てくれた。ううん、父の病状はそれほどひどいものではない。
いわゆる胆石というもので、いっそ手術で取り出す事になったのだけど命に係わるほどの危険性はないという話だった。
私はこの叔母が何と言うか、年の離れたお姉さんみたいで子供の頃から大好きだった。
今夜はうちに泊まってもらうという事でその帰り道に道すがら、私は叔母に先日見たおかしな夢の事を話してみた。


私が座っていると目の前をたくさんの中学生が行ったり来たりする。
高校受験でもあるのかとじっと眺めていると、よく分からないけどみんな母校の制服を着ているように思えた。
そういえばどこかで見たような景色だと思った。
後日になってふと思い出すには校舎の階段の踊り場にある手洗いの鏡の中から私は見ていたんじゃないかと思う。
あくまで夢の話だから、なんだかそんな風に思えるだけだった。ただ、何でこの年になって中学生時代のおかしな夢を見たのか不思議に思う。
そしたら叔母はこんな話をしてくれた。これは夢じゃなくて、叔母の身に起きた本当の話だそうだ。


叔母は若い頃、とある町の工場で働いていたそうだ。
そこは○○町と呼ばれる工場の名前がそのまま地名になるほどの大きな工場で敷地はそれこそ町一つ分ほども広かった。
そこで働く人たちはほとんどが地元の人だったけど、叔母を含む何割かは地方から就職して敷地の中の社員寮で生活している人もいた。
その女子寮は二人一部屋で伯母と住んでいた女の子は「お弁当箱」と呼ばれていたのだそうだ。


なぜお弁当箱なのかといえば彼女はなぜか常に木箱を持ち歩いていて、それがちょうどアルミ製のお弁当箱を少し深くしたような大きさだったらしい。
それをお弁当を入れて持つような編み込みのバスケットに入れ、いつも大切そうに両手で抱えて持ち歩いていたそうだ。
同部屋の叔母はもちろん、いろんな人が彼女にその木箱の中身を尋ねてみる。
彼女は普段からあまりものを言わないおとなしい性格だった事もあったが、結局その中身を知る者はいなかった。


「そんな子ってイヤだなあ。一緒に暮らしていてやりにくくなかった?」


「そうかしら、私もおとなしい方だから静かで暮らしやすかったわよ」


気さくで明るい性格な叔母がそんなにおとなしいはずはない。だけど考えてみれば部屋にいる時ぐらいは静かに過ごしたかったのかも知れない。
そう思うと、同居人はいないも同然というのもアリかも知れない。
ともかく、トイレに行く時以外は外出する時も出勤する時も彼女はそれを離さなかった。当然、周りの好奇心をそそる。

「本当に知らないの?木箱の中身。同室でしょ」


「知らないわよ。あまりしつこく訊くのも悪いじゃない」


「トイレに行ってる隙に黙って見ちゃったら?」


「そんな事できないわよ。きっと絶対に知られたくない何かなんでしょ」


叔母は仲のいい同僚たちにそそのかされてもそう言って木箱の中身には触れずにおこうとした。
いつしか会社は二年目の夏季休暇に入った。彼女は郷里に帰省して行った。
叔母も実家に帰ろうかと思ったけど、まだ間に合うかと思ってる間に新幹線のキップも取れなかったという。
混雑する鈍行なんかで帰省などしたら、それだけで丸一日を費やしてしまう。

つい煩わしくなって、叔母は社員寮に残ったのだそうだ。その年は地元の同僚と一緒に海水浴に行く。
海育ちの叔母は泳ぎが得意だったのだ。
女子寮にはひとつ規則があって他人の部屋には原則立ち入り禁止だったそうだ。
寮内には談話室が設けてあり、入居者はそこでコミュニケーションをはかる。
とはいえ、そこはわりと曖昧で例えば仲のいい者同士であればいつまでも一部屋にたむろしてお喋りに暮れている事も日常だった。
談話室でトランプでもしようという事になり、叔母は自室にカードを取りに戻った。
どうせ会社は明日も休みなのだ。それには同じ寮生活している子と地元の家から遊びに来ている子がふたりついてきた。
部屋に入るとどこからかガサガサという音がした。


「やだ、ネズミ?」


「ネズミなんていないわよ」叔母が言った。
同じ寮に住む子にも「ねえ」と相槌を促す。しばらくして、またガサガサ・・・
叔母は寮でネズミなど見た事はなかった。その痕跡らしい物も見た事はない。
だが、本当はいたら怖かった。怖いし気味が悪い。
地元に家を持つ子がそっと音のした方向を見に行った。どうも例の彼女のクローゼットからのように聴こえる。
多少気が咎めたものの、好奇心には勝てず無断で扉を開いてみる。
鍵は掛かっていなかった。そしてそこに例の木箱が忽然と残されていた。


「何の音?子猫でも飼ってるの?」


「子猫なんかその箱には入らないわよ。それに、いくらなんでも同室の私なら分かるわ」


叔母は少し離れた場所から様子を伺いながらそう言った。


「開けてみちゃおうか?」


「よしなさいよ!それこそネズミかも知れない。蛇とか虫かも知れない」


結局、叔母が止めるので誰もその箱に触れる事もなくその場はやり過ごした。


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