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木箱の謎
【ホラー その他小説】

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木箱の謎-2

夏季休暇は終わっても彼女は戻ってこなかった。
彼女と同じ部署の人や寮の管理人さんに訊いてみたら、最初は急病だと言われた。
でもしばらくして、あの夏季休暇のうちに彼女は亡くなっていた事が伝わった。
病死、事故死・・・信憑性のほどは分からないけど、どうやら自殺だったという話が人伝に漏れた。
とにかく実家に帰省した彼女は再び会社に戻ってくる事をひどく嫌がっていたらしい。
だからと言って自殺しなくても。その後に誰に聞いても「いじめ」のようなものに遭っていた様子もない。
それにそうなら、同室の叔母が真っ先に気づいてもよさそうなものだ。では自殺という話はやはり嘘なのか?


叔母は二か月あまりを彼女の僅かな遺品と生活していた。
家族の人が引き取りに来たのか、会社の方で郵送、あるいは処分したのか、荷物はある日突然消えていた。
ただ、その前の事だった。やはりみんなが気になるのはあの木箱の中身だった。
ひとりの女の子が「もう亡くなっちゃたんだし、こっそり見ちゃおうか」と言い出した。
叔母も生前の事ならやっぱり悪いけど、もういないんだしそこは黙って傍観してたという。
そしたら不思議な事にあの時には開いていたクローゼットの鍵はしっかり掛けられていた。


「あれ?おかしいな、あの時には確か開いたはずなのに」


そこで諦めればよかったものを何人かの女の子が寮中のクローゼットの鍵を借りて回ったそうだ。
これは偶然、何かの時に分かった事らしいのだが、鍵はそれほど精密な物ではなく何種類かしかないので何個にひとつは同じ鍵の物があるらしい。
その借りてきた鍵のひとつが開いたのだった。
クローゼットを開けると例の木箱があの時のまま座っていた。恐る恐る取り出して、まず軽く振ってみる。
ゴソリと音はしたけど、別段中で何かが動く気配はない。
ずっと一か月以上も閉じ込めていたので中の何かはかわいそうに死んでしまったのかも知れない。
「もう、よそうよ」叔母と幾人かの女の子は止めたのだけど、木箱の蓋は開けられてしまった。
開けた本人は中を見るなり「ひぃっ・・・」と声を漏らした。
木箱の中にはなぜか首から下だけの日本人形が入っていたのだった。
その場一帯は悲鳴の嵐となり、それ以降は誰もその話をする者はいなかった。


それからの事。寮の廊下や談話室で彼女の幽霊に会ったという噂が流れた。
彼女は必ず後ろ向きでまるで木箱を抱えているかのように立ち、こっちに向いて振り返ると眼が真っ白なのだそうだ。
そこはどの話も共通なのだけど、幽霊話はどうも信憑性が薄いと叔母がいう。
ある子の話では果敢にも「お弁当箱は家の人が持ち帰ったわよ」と話しかけたらしい。
そうしたら彼女はスッと消えたという。それから彼女の幽霊に会ったら「お弁当箱は家にある」といえば消えるという話が広まった。
叔母はその幽霊に会った事はない。
叔母曰く、他の子たちの前に姿を見せるなら、なぜ真っ先に自分のところに出て来ないのか?
少なくとも、誰よりもルームメイトの自分が一番親しかったんじゃないかと思うのだそうだ。


第一に、彼女が亡くなったというのも公に発表された事ではなく噂の域を出ないのだ。
案外あんな子だから、心を病んでしまって実家でゆっくりしてるんじゃないかと考えていたらしい。
傍でみているうちには心を病んでいるような様子も伺えなかった。確かにおとなしい子だったけど、普通に思えたらしい。
ただ、なぜか首のない日本人形を肌身離さず持ち歩いていたところを見る限り、心に問題があったのかも知れない。
結局、彼女がいなくなった真相も首なし人形の謎も今では分からず仕舞いなのだ。


そこまで話して叔母は遠くを見るように「ふっ」と息をついた。
並んで腰を下ろした夕暮れの河川敷公園。その風景から叔母は若かった頃の風景を眺めるようにも思えた。
それからこうも付け加えた。


「不思議だったのはね、なぜあんなに大事にしていたお弁当箱を置いて帰っちゃったのかしら?
それに箱の中身がガサガサ動く音をみんなで確かに聞いたし、二度目の時はいったい誰が鍵を掛けちゃったのかしらね?」


空の色はすっかり茜色に染まり、その逆反射で叔母の顔が真っ黒に見えた。
それはまるで遠く異世界を旅してきた人の顔のように見えて、私は不思議な気持ちで叔母の顔をじっと眺めていた。



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