墓場と煙草とドラッグスター。-3
「さっき、バイクが怖くないのかって聞いたよな?」
顔を上げない彼女の後頭部に、重ねて言葉を投げ掛けた。
「アイツが言ってたんだよ」
ふっ、と一つ煙を主流煙を吐き出し、言葉を選びながら一拍置く。
「あれに乗ってる間は違う世界が見える、ってな。
最初は俺も鼻で笑ってたけど、修理から戻ってきて、乗ってみたら確かに見えたんだよ。いつもと違う景色が、な。
だからかもな。恐怖ってのはあんまり感じない」
「…たい」
俺が話終わると、女は顔を上げずに何かを呟いた。しかし、そのか細い呟きは墓場の風にかき消されてしまう。
「何だ?」
「あたしも、見たい」
今度ははっきりと聞こえた。その目には光が戻っている。
「あたしもいつもと違う景色、見たい」
一歩、もう一歩と、彼女は俺に肉薄する。その度に、ミュールの踵がコツン、コツンと甲高い音で鳴いた。
「いいぜ」
俺はもう何も考えなかった。目の前の女がどこの誰だとか、自分らしくないだとか。ただ、ヘルメットをもう一つ持って来ていたことに安堵しただけだ。
「来いよ」
俺は踵を返した。
もういない友に、心の中でまた来年来ることを告げながら。