とある小説家の一つの悩み-3
「恋愛経験か…。」
ぼんやりとさっき言われた事を思い出す。
そんな事を言われても…私には彼女なんて出来ない。
まして今の私は必要が無ければ家から出ない半引きこもり状態だ。
「私では駄目ですか?」
さっきの呟きを聞いたのか、楓さんが急に話しかけてきた。
すこし静かな気配だが安心は出来ない。
「官能カテゴリに変更は勘弁してくれ。」
危うく勘違いしそうになりながらも、直ぐに断る。
楓さんに長期戦は不利だからだ。
「真面目な話です。」
いつもと様子がおかしい…と思ったら楓さんが上体を起こして私の顔を見下ろすように顔を接近させてきた。
心持ち瞳が潤んでいて顔も赤くなっているのが見てとれる。
思わず綺麗だ…と言ってしまいそうになって慌てて口を閉ざした。
それにしても楓さんが私の事を好いていてくれたとは…流石に驚いた。
そう言えば何で楓さんは私の家に居てこんな売れない小説家の助手をしていたのだろう。
私も何の疑惑も持たずに家事等全て任せて…それに私は楓さんの事は名前しか知らない。
…でも、今が幸せなら良い。
そんな考えが頭に浮かんだ。
「楓さんが良いなら大歓迎だ。」
そう言った途端楓さんの目から涙が溢れだしてきた。
そんな楓さんを見て私は楓さんの事が愛しくなり……。
「あ…。」
精一杯楓さんの事を抱き締めた。