とある小説家の一つの悩み-2
「…トラウマになりそうですね。」
楓さんの口からでた感想は喜んで良いのか私にはよく分からなかった。
改めて内容を考えてみると少しブラック過ぎるかもしれないからそのせいだろうか。
「うーん…少し読者が引いてしまうかもしれないな。」
「確かにブラック過ぎていて最低ですね、思わず原稿用紙にコーヒーを溢してしまいそうです。」
そう言うと楓さんは机に有ったコーヒーを思いきり原稿用紙にぶっかけた。
真っ白な原稿用紙がカラメル色に染まり、書いてある字が見えなくなってしまう。
「ところで先生…先生は女性と交際した事が有りますか?」
先程の行為はまるで無かったかのように突然話が恋愛の方向になった。
私はこの手の話題は苦手で正直辛いのだが楓さんを怒らすと怖いので正直に答える。
「無いよ!!一度も!全く!…無くて悪いかチクショウッ!!」
少し私のキャラが違うような気もするが正直に本当の事を楓さんに話した。
楓さんの方はと言うと、極めて普段通りの様子で私の魂のシャウトが通じなかったと思うと少し残念でならない。
「先生は恋愛経験が無いから男女の恋愛風景が思い浮かばないんですよ。」
そうか…私は年齢=彼女居ない歴だから恋愛小説が書けないのか。
確かに言われてみればスポーツ、特に球技は経験がモノをいうから小説の場合でも同じ事が言えるだろう。
「だが…私はガールズ系も結構書いているぞ?」
私は男だ…だからガールズを体験する事は出来ない。
これはさっきの楓さんの発言と矛盾している。
「だから、先生はちゃんと女性と交際すべきです。」
ソウカ!女性ト交際スレバイインダ!
「そう簡単に交際出来たら苦労しない。」
しかもさっきの私の発言は一体何処に行ってしまったんだ。
女性と交際しようと思っても何か女性に確実にアピール出来る物が無いとそう簡単にはいかない。
残念ながら私は神から一物も貰っていないのでアピールなんて出来ないし。
というかアピールなんてしたら逆効果だ。
「一応手っ取り早く経験を積む方法も有るのですが…。」
それなら早くそれをやってスランプから抜け出したいものだ。
少し考え込むような仕草の楓さんの様子が気になるが背に腹は変えられない、清水の舞台から飛び下りる勢いで聞いてみよう。
「そんな方法が有るなら教えてくれ、この状態から脱却したいんだ。」
そんな私の声を聞いた楓さんは急に嬉しそうな顔になった。
これは嫌な予感がする…今空を見たら死兆星が見えるかもしれない。
「え、良いんですか?……一気にこの小説が官能カテゴリにメタモルフォーズしますが。」
「やっぱり恋愛は地道にコツコツやるのが一番だ。」
夕食を食べ終わって私は楓さんが敷いてくれた布団に横になっていた。
一つしかない布団なのだが、後から来た風呂上がりなのに何故かメイド服にカチャーシャの楓さんが隣に無理矢理入り込んでくる。
仕方ないので少し身体をずらしてギリギリ一人分のスペース分を明け渡した。