『ボクの夏休み〜前編〜』-2
…いい加減、飽き飽きしているのかも知れない。
何より俺は、社長になるが為に生まれてきたようなもんだからな。
…こんなつまらない話があるだろうか。
「疲れた…。」
最近の口癖。
朝から発してしまうこの言葉に、これから一日を過ごすという気力が無くなる。
「おはようございます、和彦様。」
「…おはよう、おはよう。」
自分より遥かに年下の26の若者をベンツで迎えに来るのが仕事、というこの気の毒な爺さんも陰ではきっと、俺の悪口を言っているに違いない。
挨拶を返しながら、勝手にそう思ってしまう自分にも、俺は溜息をつく。
「今日は新入社員に会っていただきます。」
「そうか。」
小ホールでマイクを握る。
前方に列をなして座っている新人社員達は、そう自分と変わらない歳の御曹子の話を、黙って聴いている。
こいつら、俺を羨ましがっているに違いない。
『楽だよな、御曹子は』とでも言いたげな顔をして俺の挨拶を聴いている彼らを見渡す。
と、前列に座っている女性社員に目がいった。
「……。」
彼女の付けた名札を見た瞬間、俺はおかしな感覚に捕われる。
この名前…どこかで。
『金子夏紀』。
俺は、今朝見かけたいつかの自分の絵日記を思い出していた。
後編へ続く.