本部長昇進-1
とあるバーで
本部長の加納修二は
ロックグラスを片手に
バーボンを飲んでいた。
しばらくすると
一人の女性が店内に入ってきて
加納に近づいてくる
「本部長………
お話しとは何でしょう?」
営業部長の水木陽子(35)だ
優柔不断な性格で
自営するアクセサリーショップの
経営に失敗し
社長の常磐恵理子に誘われ入社する
加納:「まぁ座って下さい
何か飲まれますか?」
陽子は隣に座り
丁重にお断りをする
加納:「まぁそう言わずに
ちょっとだけ付き合って下さいよ」
陽子:
「それでしたら、同じ物を………」
陽子は正面を見たまま
バーボンを飲む
加納:
「最近の営業部はどうですか?」
取り留めもない話を続ける
しばらくして
陽子が話しにキリをつけようとする
「本部長…もうご用がなければ
私、そろそろ………」
加納は慌てて本題に入る
加納:
「実は、今度の取締役会で
私は取締役に
昇進する予定なんですよ」
「え!?」
加納は陽子を引き留めて
陽子のグラスにバーボンを
注がせる
陽子:
「それは、おめでとうございます」
加納:
「昇進に当たって
貴女を本部長に推薦しようかと
思っているのですが………」
この時点で
陽子は加納の言いたい事を
感じとるのであった
陽子:
「それは、ありがたい事ですが
なぜ私を?」
加納は何とも取れない
理由をこじつける
加納:
「それで、私は他の取締役たちを
説得しなければならない訳ですが
貴女と一緒にそれを
成し遂げなければならないのです!」
加納は流し目で
陽子の胸元を見ながら言った。
陽子:
「それで、私にどうしろと?」
加納:
「私と親密な関係に
なってもらいます」
陽子:
「私には夫も子供もいるんですよ」
加納の目をみて答える
加納:
「いいじゃないですか!?
極端な事をしなければ
分かりませんよ…………
ご迷惑はお掛けしませんし
私が取締役になれば
貴女は本部長です!」
加納はニヤリと笑う
陽子は少し考えてから
「少し考えさせて下さい」
と言い、店を後にした。
数日がたって
社内の廊下で
加納は陽子に近づき
「どうですか?
考えて頂けましたか?」と
ボソッと言う
陽子は
「え!?ええ………」
とだけ返事をすると
加納:
「それじゃ、今夜もあのバーで
待ってますので………」
そう言って離れて行った
陽子は結局、何も考えられず
放置していたのだ
(やっぱり断ろう
夫も子供もいるのだし………)
そう思い1日を過ごす
日が暮れて
陽子は加納が待つ
バーへとおもむく
加納の側に行き
断りをしようすると
加納に座らされ
バーボンを勧められる
陽子:
「本部長!私、考えたのですが……」
話を切り出そうとすると
加納が真剣な面持ちで話し出す
加納:
「僕はこの会社の将来を思って
貴女を本部長に推薦しようと
思い立ったんです!
この会社に水木陽子と言う
人間は欠かせないのです!!
決してやましさが
ある訳では無いのですよ!
私の期待を裏切らないで欲しい!」
陽子は何も言えなくなる
そして、
加納の夢物語を聞かされながら
バーボンのボトルは
空になっていく
陽子は飲まされる訳でもなく
注がれるバーボンを
何気なく飲んでいた
(ちょっと飲みすぎたかしら?)
酒は弱い方では無いのだが
陽子の視点は
定まらなくなっていた
「ほ、本部長………
わたし、そろそろ………」
そう言って立ち上がるが
ふらふらと、よろめく
加納:「大丈夫ですか?」
加納は陽子を支え
店を後にする