Silent'Voice.-3
「…な?ルナ!」
「ん…うん?」
「良かった!また叫びだした時はどうしようかと思ったよ。」
どうやら私はまた気を失ったらしい。
うっすらと目を開けると、違った景色が目につく。
「ここは?」
「あぁ、ここは私のお婆ちゃん家。急いで車で運んだんだよ?大変だったんだからぁ。」
「ありがと…。」
「あ、お婆ちゃん来た。」
ふと上のほうから声がした。
「お客さん。気分は良くなったかい?」
「あ、はい。ありがとうございます。」
「わたしゃ、佳代という名前じゃ。今からお客さんを見るからね。」
「はぃ…。」
ちょっと怖くなってきて肩をすぼめる私。
「大丈夫。緊張しなくていいんだよ。」
シワの刻まれた手で頭を撫でられる。なんか物凄く落ち着く。
「じゃあ、霊視を始めるからね。目を閉じて。」
言われるがままに目を閉じる私。
15分ぐらい経っただろうか。佳代さんが口を開く。
「物凄く淋しがってる霊じゃ。お客さん、何かやらなければならない事を忘れてはいないかい?思い出してごらん。」
「え〜っと…例えばどんな感じの…?」
「葬式とか、命日の供養とか、仏壇のお供えとかじゃな。」
ゆっくり記憶を掘り返していく。葬式は最近ないし…仏壇は実家だから大丈夫…命日…
「あ…。命日行ってないや。」
「何故じゃ?」
「えと、15年前くらいかな?従兄弟が病気で亡くちゃって。今年は仕事が忙しくて行けなかったんです。」
「ほぉ。となると、たぶんそれが原因じゃ。供養に行ってやんなさい。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
「ふふ…遠慮は要らないよ。また問題が起きたら来な。」
「分かりました。では。」
ふかぶかと礼をした後、里緒と一緒に墓に向かった。
途中の車中で、思い出したように里緒が私に質問を投げ掛ける。
「従兄弟さんが原因ってことは分かったんだけどさ、なんで従兄弟?」
「あぁ…。なんかね、従兄弟の子は私のことが好きだったみたい。でね、私に告白しようとした前日、急性心不全で亡くなった。って相手の母親が言ってた。」
「ってことは、その従兄弟さんは、毎年ルナが来てくれるのを待ってたんだ。一年間も。悲しいね…。お、着いた。」
二人で墓の前に立つ。墓は、綺麗な灰色だった。
「ルナ。」
慎重な顔つきで里緒が言う。
「分かった。」
私は優しく墓標に語り掛ける。
「こんばんは。そして久しぶり。今年は来れなくてごめんなさい。寂しかったでしょう?一人でずっと私を待ってたんだよね。ごめんね。私、そんなこと全然気にしてなかった。もう大丈夫、来たよ。君に会いに。でも君の居場所はここなの。私の家でもない。里緒の家でもない。私は絶対これから君の命日にここに来る。だから君は楽しみに待っててよ。分かったかな?じゃぁ私達は帰ります。また一年後、会おうね。」
「よし、行こうか。ルナ。」
「うん。」
私は墓標に手を振ると、車に乗り込んだ。