最初の悪夢-1
忙しい高校生活の間を縫って、中古ショップで購入したゲームに精を出す美里。軽いゲームなのか自宅の古いPCでも遊べるそれを夢中になってやっていると、ふと眠気が訪れる。
「さすがにやめ時かなぁ…」
ふわりとあくびを一つして、PCの電源を落とす。そのまま顔を伏せて寝てしまった美里は、消したはずの画面に映る言葉を見ることはなかった──。
「キャラクタークリエイト:on」
「関係性編集チート:on」
「ふわぁ〜…んん…っえ?」
あくびをしながら起きた美里は、周囲が自宅ではないことに素早く気付き飛び起きた。
青いシーツのベッドに、銀色のシンク、薄型の小さいテレビ、押し入れ。簡素なワンルームである。
聡い彼女はそこが先ほどまで遊んでいたゲーム、「キャラクターと友達になろう」で自分のキャラクターを住まわせていた部屋と酷似していることに気づいた。まだゲームを始めたてでお金がなく、安い家具を揃えたこともまた思い出した。
「うそ…! こんなことって!」
夢ではないと床で寝ていた身体の痛みが訴えている。長い髪を振り乱しながら混乱に叫ぶ彼女の耳に、ドアを叩く音が聞こえてきた。
「美里ちゃ〜ん? 大丈夫かい?」
ハッとした彼女は急いでドアを開けると、愛想笑いを浮かべる。
「え、ええ…すいません、わざわざ。大丈夫です」
薄い髪を無理やり撫で付けた、脂ぎっている中年の男。
──確かゲームにはキャラクターを作成できる機能もあるが、こんな男作った覚えはない。焦燥をにじませた笑顔で扉を閉めようとする彼女の細い手首を男が掴む。
「美里ちゃん…おじさんのこと知らないって顔だね…酷いな、忘れちゃったのかい?」
バチ、と脳に強い電気が走る感覚の後、脳裏にゲーム内で見たパラメーターが浮かぶ。そのパラメーターには男──中嶋兼三の名前と美里の名前、そして二人を「運命の恋人」という単語が結んでいた。
ゲームでは、運命の〇〇というシステムがあり、云万分の一の確率でランダム生成されるバフ効果である。本来「挨拶」や「プレゼント」などで深める交流を、運命の〇〇たちはすっ飛ばして恋人や親友になるのだ。全年齢ゲームのためぼかされているが、恋人同士には特殊アクションがあり一気に関係を深めることができる──つまりセックスである。
美里の脳は、ゲームのシステムに沿い意思とは関係なく兼三を好ましく思い始めていた。生理的嫌悪を誘発させる容姿なのだが、手首を掴まれているのさえ心臓が高鳴ってどうにかなりそうになってしまう。
「おかしい…おかしいよこんなの…やだぁ…!」
心に決めた人がいるのに、中年の男のすることを拒めない。美里はぽろぽろと涙を流していた。
「美里ちゃん、泣いてるのも可愛いよ…」
段々と近づく男の顔。顔を背けることもできず、美里はキスを受け入れるしかなかった。