探偵、依頼受付中 【弁当】-4
雨が地面に打ち付けられる音。鳩時計の三回の鳴き声。その二つの音は望の叫び声により見事に掻き消された。
「先生〜解りません〜!」
望は命のデスクに駆け寄り、そう言った。
「あれ? まだ考えていたのか?」
呆れたといった顔で答える命。
「教えてくださいよ〜!」
目に少し涙を浮かべながら懇願する望。
そんな望をさらにヘコませる一言を命は言った。
「バカ」
「はっ?」
思いもかけない命の言葉に驚く望。
「バカ」
もう一度言う。
「バカ」
さらにもう一度。
「先生、もうバカでいいんで教えてください!」
「いや、だからバカ」
(この人何が言いたいの?)
望は戸惑って、だらしなく口をぽかーん、と開けた。命はその顔を素早く携帯電話に内蔵されたカメラで撮影し、ニヤっと笑った。
「いいか、黒丸が表すのは1、白丸が表すのは0だ。で、それぞれ直すと何になる?」
望は手帳に、1011、1010、1100、1010と書き込む。と、そこでピンと来た。
「二進法!」
「そう、それぞれ二進法で、11、10、12、10のことだ。じゃあ、十六進法に直して」
「えーっと、B、…A、…C、…A?BACA……バカ?」
「そう答えは『BACA』……バカだ」
「……」
そんな暗号の答えを聞き、何も言えなくなる望であった。
一方命は望の様子を見てさらにニヤっと笑う。
「ふふふ、紙にすでに答えが書いてあるんだからな。中々親切な暗号じゃないか」
「はぁ、そうですね……」
(どうせ私はバカですよ―……はぁ……)
「退屈な日常はちょっとしたスパイスで愉快なものになるな」
そう言って今の言葉を『天才、朔夜命の名言集ノート』に書き込む命に対し、ツッコミを入れる元気もない望であった。
「ああ、ところでせっかく解いたんだ。明日の弁当は望君が受け取ってきてくれ。ハンバーグカツ弁当ライス大盛りな」
end