Farewel l-9
「・・・君には言わずもがなだろうが、エドガーの母上つまり先代のフィガロ王妃は、エドガー兄弟を産んでからあまり日を置かずに亡くなられている。
もともとフィガロ先代国王であるスチュアート陛下が一目惚れして、年若な彼女を王妃に迎え入れことくらいは知っているだろう?」
「ええ・・・・・」
アウザーの言葉にセリスは頷く。
エドガー兄弟の母親で、今のセリスには義母にあたる“先代王妃”の名前はクリステール。
“砂漠の泉”と唄われた美貌をもった修道院出身の孤児だったが、
エドガーの父にあたる先代スチュアートに見初められ王妃として迎えられた。
ただ二十歳前後で双子を産んだせいもあり、若くして亡くなったというのが、
セリスに限らず一般で広く知られている先代王妃の略歴である。
――――ス、ス、ス・・・・・・
いつしか右肘で肘枕をするアウザーの左手は、言葉を紡ぎながらも、そろそろと汗を吸い込んで水気を含んだドレスの生地越しにセリスの肌を太股付近から胸元へと上へ上へなぞりつつゆっくりと動いていく。
だがセリスは彼の指の動きよりも、彼の唇から漏れる次の言葉の方に神経を集中させていた。
「だが一方で、スチュアート王はクリステール王妃との結婚前から様々な女性を虜にし、これはという女性を愛人にしていたという。無論クリステール王妃が亡くなってからもそれは続いていたらしいが。
そんな国王の不実さに対して、クリステール王妃自身が何を思っていたのか、今となっては全く謎になっている。
ただクリステール王妃も、彼女を恋する若い家庭教師の“求愛”を受け入れていたらしい。
彼女にしてみれば、彼女なりの復讐だったのかもな。
だが先代王の場合は――――――血は争えないと言ってしまえばそれまでだが―――――――表に出ない分謎めいているし実態がよく分からない。私の話も噂話の又聞きの類いには違いないからね。
その家庭教師こそ、私やエドガー達が成人するまで歴史や社会学を講義してくれていた恩師だ、と言われていた。流石に先王存命中は表に出なかった、だから師が教師を続けられたのだろう。その時の師や先王の思惑は今となっては分からんがね。
我々が成人以降職を辞して世界を巡っていたらしいが、私も最近会っていないんだ。
はてさて、真相は本人のみぞ知る、か・・・・・」
「クリステール様の・・・・秘密の恋の相手・・・・」
流石のセリスもこれには一瞬言葉を失い、ゆっくりと言葉を反芻させることになった。