Farewel l-8
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―――――――――あれはそう、
セリスがジドールの宿屋の一室で、 富豪アウザー2世と逢っていた時のこと。
「――――――――・・・・・ん」
うっすらと目を開けると、壁にかけられた自分の肖像画が目に入る。
鼻孔を擽るのは、枕元に置かれた花瓶に生けた“青い薔薇”独特の香り。
肖像画と同じ紫のドレスを身に纏ったままアウザーに抱かれ、
そのせいか汗を含んだドレスの生地がセリスのやや赤みががった肌にぴったりと張り付いている。
「お目覚めのようだね・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・一国の王妃に恋い焦がれることがどれだけ甘美か。
こうして教授と同じ立場になってみて、改めて実感しているよ」
セリスの傍らに横たわり、うつ伏せの彼女の金髪を右手でもてあそびながら、
アウザーは唇を彼女の耳元に近づけて囁いた。
今まで身体のあちこちに心地よさと気怠さを遺した中にあったセリスの意識が、ここで一気に明瞭なものに早変わりする。
「・・・・教授と同じ・・・?それはどういうこと?」
ごろりと身体を反転させ、覆い被さるアウザーと至近距離で見つめあう格好になる。
真剣味を帯びたセリスの表情に可笑しさを覚えたのか、アウザーはニヤリと意味ありげな笑みを目元口許に浮かべた。