Farewel l-7
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――――――――それから1時間後、
「ふう・・・・何とか一通り捌いたといったところかな」
宴も半ばにさしかかり、漸く大広間に参集していた来賓達からの挨拶受けを終えたエドガーは、セリスとともに大広間から抜け出す形でテラスに移動し一息入れていた。
大広間からの喧騒や楽器からの調べとは対照的に、
テラスの外に広がる月明かりに照らされた黄砂の海からは音1つない静寂さに包まれていた。
互いにテラスの手すりに半身を預けつつ向かい合うセリスとエドガー。
彼等の頬をふんわりと生暖かい砂漠の風が撫でるように流れていく。
「それにしても今日は疲れたんじゃないか?・・・・といっても、まだ祝宴自体は終わっているわけではないが」
夫の言葉にセリスはやや肩をすくめつつ、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、私も王妃という立場になってそれなりに場数は踏んだつもりだから・・・これでも“女将軍”の異名は伊達ではないのよ」
「そうだな・・・・確かに。それに宴最初の挨拶も堂々としていて、聞いているこちらとしても流石だなと感心していたんだ。聞いている来客達も誉めていただろう?もうセリスは1人前の王妃様、王妃様々だな」
「誉めすぎよ、貴方も来賓の方々も・・・・日々精進、これからも先代王妃に負けないように頑張るつもりだわ」
「ありがたい・・・・ただ、無理はしないでくれよ。私にとっても王国にとっても、セリスはなくてはならない存在なのだから」
ここでエドガーは言葉を切る。
「しかし私の同窓達をいきなり紹介してしまったが、セリスから見てどうだったかな?あれはあれで曲者揃いだが、悪人はいないんだがね」
「・・・それは初対面の私でも分かったわ、貴方の学友っていうだけあって個性的で独特だけど・・・・。
あとは・・・最後に紹介してもらった恩師の方。雰囲気は物静かだけど、内面には知的さを秘めていそうね」
セリスの言葉にエドガーが肩をすくめつつ苦笑する。
「教授か(いつからかそう呼んでいたな)・・・・世界崩壊前から今日まで顔を合わせることはなかったが、殆ど変わられていない。母が存命時代から王室には所縁あってね。
そのまま我々に歴史や社会学、果ては文芸に至るまで幅広く教えてくれたよ。母が亡くなってからフィガロ大学の教授に就かれたが、私たちへの教育は引き続き受け持ってくれていた。
真面目でいつも目立たないように控え目に振る舞い、物静かだがフィガロ大学の教授になられただけはある、知的な方だ。
私が王位を継いでから職を辞されたが、本当に今までご無事であられたものだ。何年経っても変わられていない・・・・・」
(・・・・・・・)
エドガーの感慨深げな言葉を聞きながら、当のセリスは全く別のことを考えていた。
いや、“思い浮かべていた”と言った方が正確かもしれない。
それは決して夫には明かせない情景。
夫の学友の1人でもある富豪アウザーと2人きりの時に交わした、
彼等の“恩師”に関する会話の情景―――――――――