Farewel l-5
「――――――――それでは、次に王妃様から御言葉をいただきたいと思います!!」
――――ワァァァ・・・・
セリスの名を呼ぶ司会の声と辺りに響き渡るどよめきにセリスははっとした。
いつの間にか“夫以外の男達”に意識を巡らせていたセリスは、司会者から名を呼ばれて漸く目の前の夫との記念日に意識を戻すことができたのだった。
周囲に促されるように腰を上げたセリスの表情は、フィガロ王妃のそれに戻っていた。
ゆったりとした微笑みを浮かべ、
夫に対して軽く頷きつつ自分を見上げてくる様々な男女の視線を一身に浴びながら、
セリスはひな壇の中央に立つ。
天井からのシャンデリアの光を浴び、背筋を伸ばしたセリスの凜とした表情に人々は思わず感嘆の溜め息をつく。
だが視線の先にいるセリスが王妃として結婚記念日の宴に対する謝辞を淀みなく述べつつ、
実は夫以外の男達と背徳の経験を共有していることなど、一体誰が想像することができただろうか―――――――
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――――ザワザワザワ・・・・・
――――ザワザワザワ・・・・・・
国王夫妻の挨拶が終わると、そのまま賑やかな宴の時間に移る。
客同士がグラスを片手に、または皿の上の料理を摘まみながら思い思いの時間を過ごしている。
そんな人混みを掻き分けつつ、
エドガーとセリスは肩を並べて来賓達への挨拶回りを行っていた。
天井に吊るされたシャンデリラの眩い光が、人混みを縫うようにして進む国王夫妻の金髪に輝きを与えていた。
誰も彼もがエドガー夫妻に対して祝いの言葉を述べ、目の前にいる夫妻の―――というよりも厳密にはセリスの美貌と、ドレスの下に隠れている無駄のない肉付きの肢体に視線を走らせる。
王妃生活の経験値のお陰か、殆ど言葉を交わすことなく自然な“作り笑い”で対応するセリス。
妻に代わって応対するエドガーの傍らで、セリスは王妃としての役割を立派に演じていた。
「―――――エドガー・セリス両陛下。本日はお招きいただき、本当にありがとうございます」
そんなセリスにとって単調な作業となっていた挨拶回りが今までとは違う雰囲気になったのは、
広間の一角に集まっていたエドガーと同世代の男達の集まりのところまで来たときだった。
数えたところで10名足らずだが、
その大半が顔立ちが整い、上流階級風の雰囲気と出で立ちであり、
それぞれがグラス片手にセリスやエドガーがやって来るのを待ち受けていた。
今回が初対面であるセリスから見て、
それぞれの職業や経歴には違いがあるようだが、
共通するのはエドガー達を迎える彼等の空気に親しさと気安さが漂っているということだった。
「―――――――今日はわざわざ来てもらってすまないな。・・・・しかし、まぁいつ以来だったか、ここにいる面々が最後に会ったのは」
「そうだなぁ、お前の国王即位以来だから、10数年ぶりかな」
「お互いに色々とあったが、それなりに年をとったな」
「ハハハ・・・・・」
「ハハハ・・・・・」