Farewel l-20
ここで正面を見据えていた教授が首をやや左に動かし、
彼の傍らで両膝をついていたセリスと視線が重なりあう。
セリスはここで彼の瞳の中に、
彼女を惹き付けた原因、“独特の色”を見た。
それは目の前の異性を求める“欲望”の色とも違うもの。
こうして間近でまじまじと見つめることにより、
セリスは“その色”が彼女自身何度も目にしてきた色であることを思い出していた。
「・・・・セリス様?」
「・・・・そう、その目・・・・・・
“哀しみの色”が浮かぶ目。・・・・私もこれまでに何度か見たことのある目です」
セリスの言葉に、教授は肩をすくめつつフーッと大きく息を吐いた。
「・・・・貴女もかなりのご苦労をされ、辛さ悲しさを経験されたのでしたな。エドガーから一通りは聞いています。詳しいところまでは聞いていないが・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・生きるということ自体、哀しいことの連続ですから・・・・・」
ハッとしたセリスの右頬にいつの間にか教授の左手が添えられる。
指の微かな動きもセリスには全て感じられる。
もしかして教授はこの瞬間、セリスの瞳の中にも“哀しみの色”を見たのかもしれない。
その彼が上体を捻りながら上体をセリスの方に向けつつ、ゆっくりと顔を近づけ互いの唇が重なり合った時も、
セリスは全く動揺することなく、
彼の唇を受け入れ舌を絡ませることができた。
それは欲望とは違う哀しみを“共有”できた者同士の、1種の“共感”なのか―――――――――
───クチュ・・・チュ・・・
「ン・・・・・んっ・・・・」
「ンン・・・・・」
彼の鼻息と分厚い舌を感じることで
より一層彼との距離が縮まったのを感じる。
セリスよりも年長である男の熱と、見かけからでは分からなかった一種の逞しさにセリスの肌が粟立った。