Farewel l-13
こうしてセリスは教授の斜め右正面に位置するソファに腰を下ろし、
改めて教授の顔を見つめた。
「・・・・エドガーやお仲間たちは別の部屋で集まっていると聞いていましたが・・・・そちらには?」
「ええ、一応顔は出しましたが・・・正直なところ、私自身あのような砕けた酒の席は正に会わなくて・・・・・教え子達の手前もありますが、義理は果たしたと思っていたので逃げてきました。
・・・・まぁ、私みたいな陰気な老いぼれがいない方が彼等も気兼ねなく飲めるでしょうし」
「老いぼれだなんて・・・お聞きした年齢よりもずっとお若く見えますよ」
「ありがとうございます。そう言っていただくと、お世辞とはいえ嬉しいですな・・・・・・」
微かな笑みを口許に浮かべる。
その瞳の色や視線、そして態度に変化はない。
宴の際酒もあまり飲んでいなかったのだろう。
見たところ酔いに起因する乱れも見受けられない。
式典の際のドレスのまま、やや汗ばみ
肌も赤みがかっているセリスに対しても、良く言えば穏やか、悪く言えば淡々と対応している。
それがおかしい訳ではないのだが、
対面中のセリスとしてはやや調子が狂う。
「・・・・それにしても、エドガーの“先生”だったということですが、昔の彼はどんな感じだったのですか?」
「そうですね、子供の頃のエドガーは―――――――」
沈黙を避ける為の話題として、自然にエドガーに関する話題になる。
流石に長年彼が教え子だっただけあって、教授自身も知らず知らずのうちに滑らかな語り口となり、
セリスも今まで知らなかった夫の昔話に相づちをうち、肩肘張らずに会話を楽しむことができた。
やがて話題はエドガーから母親のクリステール王妃に関するものに移っていく。元より意図的にセリスが誘導したわけではなかったが。
流石同じ時代に生きたこともあり、
その話題では今までセリスの知らなかったエピソードが含まれ、
改めてクリステールや幼少期のエドガーの人となりを知ることができた。
気づけばセリスも時が経つのも忘れて彼の語る話に聞き入っていた。