Farewel l-12
だが廊下を進んで間もなく、セリスはエドガー達のいるであろう宴の場所に着く前に早々と“当初の目的”を達成してしまうことになった。
(あれは・・・・・・・)
セリスの視線の先には、城唯一の“図書室”のドアを開けて中に入ろうとする教授の姿があった。
そこは城に出入りする者ならば自由に出入りし読書できる場所であり、
相当数の書籍が納められ独特の雰囲気を醸し出している空間。
(あそこで飲んでいるわけじゃないだろうけど・・・・私の見間違いじゃないわよね)
一瞬そう思ったものの、相手が目立たない空気や出で立ちだとはいえ、流石に数時間前に目にしたばかりの人間の風貌や装束を見間違うとは考えにくい。
(・・・・・・・・)
もっとも周りに人がいない方が、セリスとしては余計な気を使わなくて済む。
―――ギィィ・・・・・・
セリスは一呼吸おくと扉を人1人入れるまでゆっくりと中の様子を伺った。
そこで早くもセリスの視界に、
図書室の中央に置かれた円卓と分厚いソファ、
そしてソファの背もたれに身を委ねつつぼんやりと天井の紋様を眺めていた教授の姿が飛び込んでくる。
セリス自身ただ相手の顔立ち姿を盗み見るだけのつもりだったので、
いきなり相手に鉢合わせの形になってしまい慌てて扉を閉めようとした。
だが扉付近の人の気配を察したのか
相手が首を戻した時期せずして、
セリスと教授が向かい合う構図になってしまったのだ。
「あの・・・・・」
「・・・・王妃、様?・・・・何故、こんな夜更けに」
「・・・・・その・・・・眠れなくて・・・・お邪魔だったかしら」
「いえ、そんなことは・・・・・」
2人の間にぎこちない空気が漂う。
このまま姿を消すわけにもいかず、
セリスは成り行き上そのまま部屋に入り、内心の戸惑いを必死に隠しつつ教授と向かい合うことになった。
もっとも相手の方もセリスと同じ心境に近かったのであるが。