Farewel l-11
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――――――時を現在に戻す。
――――――セリスの回想から2時間後、
盛大なる祝宴は文字通りお開きとなり、
来賓達の拍手に見送られる形で会場を後にしたセリスとエドガー。
背後に侍女を従える形で石造りの廊下を抜けて、それぞれの寝室に向けて歩を進めていく。
寝室に到着したセリスは、夫からの労いの言葉を受けながら、胸に抱き寄せられ、おやすみの口づけを交わす。
聞けばエドガーはこの後かつての学友達が待つサロンに足を運び、文字通りの“同窓会”に移行するとのことだった。
「疲れてる身で、あいつらの相手をするのはなかなかハードだよ」
と肩をすくめつつ、苦笑しながらもどこか嬉しそうな夫の背中を見送る。
そのまま寝室で世話をしようとする侍女も退出させ、
セリスは今まで他人の視線を気にして解くことのできなかった緊張の糸を漸く緩め、後ろ手で寝室の扉を閉めながら口から長い長いため息をついた。
―――――――パタン・・・・・・
「ふぅぅ・・・・・っっ」
緊張の糸が途切れたせいか、今まで自覚していなかった疲労感が、
まるで鉛の塊のように両肩にのしかかってくるのを実感する。
「それにしても・・・・・」
セリスの頭の中を先程まで支配していた事柄が再び甦ってきたのだった。
(それにしても、あの人がクリステール王妃の想い人・・・・・・)
セリスは数時間前に会ったばかりの“夫の恩師”の姿を思い出そうとした。
エドガーはじめ教え子達の個性的な風貌と雰囲気に埋没してしまいそうな物静かで目立たない空気、そしてセリスを見つめてきた“独特の目”が脳裏に浮かび上がってきた。
(・・・・・あの目・・・・・)
他の男達が見せた“欲望の焔”を見せなかった瞳。
セリスにとって彼の瞳の色が色濃く脳裏に浮かび上がる。
(・・・・・・・・)
セリスは意を決し、無言のまま踵を返しドアの方に向かう。
何故か教授の目の色が気になってきた。再び顔を合わせることに抵抗感も感じたものの、直接確認することではっきりさせたくなったのだ。
無論クリステールの過去に隠された秘密に対する好奇心が働いたこともあるだろうが。
――――――――ガチャッ・・・・
――――――――ギイィィィ・・・・
ドアを開けた先には、侍女を含め人気のない城の廊下が左右に広がっている。
耳を澄ませば、城のあちらこちらで人のざわめきや笑い声が微かに聞こえてくる。
エドガー達のような文字通りの2次会が各所で行われているのだろう。
そんな中セリスは式典の出で立ちそのままに部屋を出て、エドガーが口にしていた城の一室に向かっていた。
恐らくは同席しているであろう、
エドガーの師にして亡き先代王妃の恋人の顔を再度確認するために。
――――ヒタ、ヒタ、ヒタ・・・・・
廊下の照明によって闇の中にぼんやりとセリスの影が浮かび上がっていた。