気づきの夜-1
「あっ…やぁああっ…!!」
聞こえるのは自分の声とベッドの軋む音。
「やんっっ…あっ…ああんんっっ!」
「気持ちいい…?亜紀」
「んっ…きもちっ…いっ…んんっ!!」
答える私の唇を塞いで更に責め立てる。
「かわいいよ…亜紀…もっと感じて…」
耳元で甘く囁く声。
体に与えられる快楽と相まって痺れそうになる。
これは体だけの快楽?それとも…。
慶介の動きが段々と早く激しくなっていく。
「あっ…!ダメっ…!イク…イッちゃううぅっっ…!!」
「ああっ…!おれもっ…!おれもイクっっ…!!」
「亜紀さん大丈夫?何か飲む?」
「ん…とりあえずいいや」
「んじゃ飲ませてあげる」
田畑は手に持ったペットボトルの液体を口に含むと、おもむろに私の元へ。
ひんやりとした唇が私の唇に触れる。
「んっ…」
ごくり、と自分の喉が鳴る音。
口移しにされた水が甘く感じる。
「亜紀さん、物欲しそうな顔してる♪」
「…もー!!そういうこと言わない!」
楽しそうな顔をする田畑を軽く睨む。
こうして田畑に抱かれるのはもう何度目だろう。
お互いになんとなく予定が合えばこうして会って、抱き合って。
抱き合った後の田畑はいつも通りで、それもまた気楽。
失恋の痛みを忘れるには十二分だ。
「ところで亜紀さん、今度の土曜は暇?」
飲みかけのペットボトルを弄びながら田畑が私に聞く。
「土曜日?…うん、暇だけど」
「じゃあ、俺とデートしてくれる?」
ずいっと顔を近づけて尋ねる田畑。
「ずっと部屋でしか会ってないし、たまには出かけようよ。ダメ?」
「ダメじゃないけど…」
「けどなに?」
田畑が怪訝そうに尋ねる。
「外だと学校の人に見られるかもしれないよ。田畑モテるじゃない?
もし誰かに見られてウワサになったら大変じゃないの?」
一瞬キョトンとした顔をした田畑。
ふっ…と柔らかい笑顔になる。
「そんな事気にしなくていいよ」
ドキリ。
私の胸が締め付けられる感覚。
田畑のこの笑顔…好きだけど苦手。
変な気持ちになる。
「亜紀さんとウワサされても、俺は一向に構わないよ。別に周りに何か言われてもいいし。…あ、でも亜紀さんが嫌かあ…」
ちょっとしょげる田畑。
かわいい。
「私も別に大丈夫だよ。後輩の女の子に恨まれたらその時だね。ふふっ…」
笑いながら返事をすると、
「え、何?誰か俺の事狙ってるの?教えて教えて!」
「…もー、調子に乗らない!」
こんなやり取りもすっかり普通で。
本当に居心地がいい。
でも…。
チラリと本棚に目を向ける。
あれから田畑はお姉さんの写真を飾らない。
「姉ちゃんに怒られちゃうな」なんて言っていたのに。
それが気になるけど、それ以上は聞けなくて。
何故だろう。聞いちゃいけない気がして。
「じゃあ土曜日亜紀さんの家に迎えに行くね。10時くらいでいい?」
「うん。用意しておくね」
デートなんて久しぶりで、ちょっと心が浮き立つ。
写真の件は気になるけど、今はデートの事を考えよう。
そして土曜日。
バイクで迎えに来た田畑の後ろに乗る。
「亜紀さん専用ね」
と言われていつの間にか用意されたヘルメットを被る。
「準備できたよ」
「OK。じゃあ出発するよ!」
田畑の腰に手を回すと、ゆっくりバイクが走り出した。
「着いたよ」
そう言われて降りたのは、海沿いのコンクリート打ちっぱなしの建物。
「…水族館?」
「当たりー。亜紀さん水族館好き?」
「うん!大好き!」
思わずはしゃいだ声を出す私に田畑がふっと柔らかい笑顔で応えてくれる。
「良かった。俺も水族館好きなんだ。さ、行こう?」
そう言って、手を差し出す。
「え?」
「え、じゃなくて(笑)
デートなんだから。手、つなご?」
「う、うん…」
ドキドキしながら自分の手を田畑の手に重ねる。
ちょっとゴツゴツした、大きな手。
田畑は満足そうな顔をして、私の手を引いて水族館に向かって歩き出した。
「わあっ…」
中を歩いて見て行くと、急に大きな空間に出た。
大水槽だ。
「『キレイだね…』」
2人同時に声が出て、顔を見合わせて笑う。
水と射し込む光、きらめきの中を魚達がヒラヒラ泳ぐ。
その美しい光景に思わず声をあげた。
「キラキラしてる…」
「俺もこの大きい水槽好きなんだ。
色んな魚が泳いでて、水が反射して、海の中にいるみたいな」
「うん、わかる」
魚達の自由に泳ぐ様を見ながらしばしの間無言になる。