朔太郎とサクミ-1
「そう言うわけ、1週間、お世話になりまする。」
目の前に制服姿の、マスクを外したサクミがいた。
「マスクは?」
「やはり気になりまするか?しかし、同じ屋根の下で1週間暮らすわけですし。
濃厚接触の可能性もあるわけでありますから、
もはや運命共同体とお考えいただければと思いますのでございます。」
「運命共同体、ですか……。」
「はい。朔太郎様に異存がありますれば、すぐにマスクをし、
ソーシャルディスタンスを守るようにいたしまする。」
(と、とんでもない。せっかくのこの可愛い顔をマスクの下に隠すなんて、
犯罪だ!許される行為じゃない!!)
朔太郎とサクミは、朔太郎の家の玄関先で、
2m以上の距離をとりつつ、小声でしゃべっている。
「家の中でソーシャルディスタンスねえ……。そんなに広い家じゃないしなあ。
ファミリーディスタンスとかもあるんかなあ。」
「はい。おっしゃる通りでございます。
わたくしといたしましては、最初はファミリーディスタンスから始め、
後半にはラバーズディスタンスまで縮めていければと思っておりまする。」
「ラバーズディスタンス、です、か?」
「はい。わたくしの希望ではございますが、そのように考えているのでございます。」
「サクミさん。本音を言ってもいいですか?」
「はい。なんなりと。」
「後半から、とかではなく、今からすぐに、というのはダメですか?」
「……。お気持ちはありがたいのですが、やはり、手順を踏みませんと。
わたくし、物事を計画的に進めていくことこそがポリシーでありますれば…。」
「計画的に、ですか?」
「はい。下見や下準備をきちんと行い、万全の態勢で本番に臨みまする。
もちろん、アクシデントはありますれば、それを乗り越えるのは臨機応変。
それでもやはり、綿密な計画の下、遂行いたしたく存じますので。」
「わかりました。では、まずどうすればよろしいでしょうか。」
そう言いながらも朔太郎にはサクミの話がなかなか頭に入って個pなかった。
朔太郎の視線はサクミの顔にくぎ付けになっていたのだ。
(予想通り、いや、予想以上だ。そしてあの時の、駅階段露出の彼女に間違いない。)
朔太郎は母親に感謝した。
最初はスマフォを覗かれ、サクミからの電話に出て、勝手に約束をするなど、
なんて差し出がましいことをしてくれたのだろうという怒りもあったのだが、
今は、なんて素晴らしいアシストをしてくれたのだろうかと感謝の極みだった。
「では、まずはファミリーディスタンスから始めるということで。」
そう言うとサクミは靴を脱ぎ、家に上がった。
そして朔太郎の手を握り、それを自分の胸に当てながら言った。
(お、おい、いきなりこれがファミリーディスタンスかよ?近すぎない?
それに濃厚接触にも近い、この手の握り方……。)
「わたくしも、多少の恥ずかしさはあるのでございます。
恥ずかしさを取り除くため、まずはビデオ通話からと思っていたのでございますが、
思いもよらぬ事態になりまして、困惑しておるのでございます。」
「あ、いや、こっちも、困惑って言うか、その、どこをどう、なにをどう……。」
朔太郎の股間は早くも反応を示し始めていた。
「で、朝の電話でも申し上げましたが、やはりお互いの恥ずかしさを無くすため、
わたくしにはもともとの計画があったのでございます。」
「は、はあ。その、計画とは……。」
「せっかく同じ家にいられることになったのではございますが、
今の状態ではお互いに会話もままならぬかと。」
「はい。確かに。照れて照れて、どこを見たらいいのかもわかりません。」
そう言いつつも、朔太郎の目はサクミの顔を中心に穴が開くほど見つめていた。
時々、視線を逸らすようなそぶりをしながら、
サクミの胸の膨らみや腰、そして短めスカートから出ている太ももなど、
上から下までくまなく注視していた。
「はい。そこで、わたくしの計画に乗って頂けまするでしょうか?」
サクミはまだ朔太郎の手を握ったままだった。
そしてその手を自分の胸に当て、祈るような顔で朔太郎を見た。
「ど、ど、どのような?」
(や、柔らかい。し、しかも、かなりのボリュームだ。)
駅で肩を貸してもらった時の感触が蘇ってきた。
いや、あの時よりもはるかに密着度は高い。
それにサクミ自身が時々手の位置を変えるので、
サクミのバストの凡その形さえ朔太郎には想像できるほどだった。
「いえ。まずはお答をいただきたく存じます。YES NOでお答えください。」
「計画の中身は?」
「聞かぬまま。」
サクミは朔太郎の左右の手を、それぞれ自分の両方の乳房のトップに当てると、
そのまま強く抱きしめるようにした。
「……。イ、YES。」
「ありがとうございます。では、朔太郎様はご自分のお部屋へお行きください。
わたくしはこのリビングの隣のお部屋を貸していただけるとか。」
「あ、はい。簡単に掃除はしてあります。もとは親父の書斎だった部屋ですけど。」
「ありがとうございまする。では1時間ほど後、ビデオ通話にて。」
サクミはあっさりと朔太郎の手を放し、自分の荷物を持った。
「あ、ビ、ビデオ通話、ですか?一緒にいるのに?」
「その方が照れずにお話しできるかと。
もとよりそういうお約束も致しましたゆえ。」
「あ。確かに。確かにそういう約束、しました、です。」
「では……。」
「はあ。」
サクミは振り返りもせずに、リビングの隣にある父親の書斎へと向かった。
一人取り残された朔太郎は、両掌に残ったサクミの乳房の感触を思い出しながら、
しばらくは動けなかった。
(これから1週間……。
いったい、どうなっていくんだろう。)