再会 あなたのことが知りたい-8
(高校卒業までに童貞卒業したかったのに、現実はなかなかそうはならなかった。
だから、やらせてくれるって話?違うの?)
「た、た、例えば、や、や、やせ、らせて、や、らせてくれる、とか?」
『あ、いきなりは無理ですが、それはわたくしも以前から考えておりました。
あと3キロ、出来れば5キロは、痩せたいとは。
でも、わたくしが痩せても、朔太郎様の自信にはならないのではないですか?』
「あ、やせろ、って……。(あ、やらせろ!やせろ!あ、確かに……。)」
『そうでした。
勘違いなさらないでいただきたいのは、朔太郎様の願いを叶えて差し上げる、
というものではございません。
あくまで自信を持たせて差し上げるということでして。
シェンロン様やランプの妖精様とは違うたぐいの……
3つの願いを叶えてやろう……みたいなことではございません。
一つの自信はすべてにつながっていくものでございます。
自信を持つ、というのは一つのきっかけにしかすぎませぬ。』
「なるほどね。サクミさんがそのきっかっけを作ってくれる、っていうわけだ。」
『はい。わたくしの全てを投げ出して、でございます。』
「じゃあ……。ボ、ボ、ボク、ボクと……付き合ってください。」
『付き合う?わかりました。』
「えっ?即答?いいんですか?」
『はい。もちろんです。で、何に?』
「えっ?何にって?」
『ですから、このようなお電話。
あるいはお買い物、あるいは図書館、あるいはボーリング、あるいは……。
あ、ただ、今はまだ外出自粛でございますし、3つの密は避けねばならぬかと。』
「あの、いや、そういうことじゃなくって……。」
『あ、では、お勉強、あるいは喫茶店、もしくは……。』
「サクミさん。ボクの彼女になってください!」
『………………?』
「あ、あの、返事、は?」
『いえ、なんとお答えすればよろしいのかと。』
「いや、こういうのは、普通、ハイ、あるいはイイエ、
さもなければ、考えさせてください、かと思いますが。」
『いえ、それはそうなのですが、わたくし、本当に何と答えればよろしいのか。』
「ボクのことがき、き、嫌いですか?」
『いえ。嫌いなどということは。3年間、ずっと探し続けていた方です。
どんな方であろうと、嫌いなどということにはなりませね。
ただ、わたくしが朔太郎様の彼女になったとして、
朔太郎様になにかメリットのようなものがあるのかどうかを考えておりまして。』
「メリット?そんなもの、なくったっていいんです。
付き合いたい。彼女になって欲しい。一緒にいたい。一緒に……。時々はしたい。
ただそれだけです。」
『ただ、3年以上もあこがれ続けてきたわたくしとは違い、
朔太郎様はわたくしのことを昨日、知ったばかりではございませぬか?
それも、駅でお話しした時間も極々短い時間。
つまり、朔太郎様はわたくしのことをほとんどご存じないはず。
それなのに、何故、わたくしに彼女になって欲しいなどと……。」
「一目ぼれ、いや、ずっと好き、でした。多分。
いつのころからって言われると、まだはっきりはしてないけど、
ボク、サクミさんと、何度か会っています。いや、いるような気がするんです。」
『そのことはおいおい伺うとしまして、
もしもお付き合いを始めるにしても、今は外出自粛。
付き合うにも、身体を近づけることもなかなかかないません。
一緒にいたいとおっしゃっても、マスクをつけ、
互いにソーシャルディスタンスを守らねばなりませぬ。
そのような状態で、彼女になったということの証は、
どのようにすればよいのでしょうか。』
「じゃ、じゃあ、緊急事態宣言が撤回されたら、付き合ってくれますか?」
『う〜ん。いつになることやら。
それまで何もなく、ただ待つというのは、
こうしてお互い連絡がとれるようになってしまった今、逆に辛いかと。
ああ、こんなことならばいっそ、わからずじまいの方がよかったような。』
「ボクに会えないと、辛い、そんな風に思ってくれてるっていうことですか?」
『それはもちろんでございます。
駅でちらっと見てしまった朔太郎様のあの部分。
パンツの上からとはいえ、かなりのものとお見受けいたしました。
一時も早く味わいたい。
それがわたくしの本音でござりまするゆえ、
恋人同士となっても逢えぬ夜は、
夜が明けるまで一人寂しく慰めるような日々を過ごさねばなりませぬ。
アア、さっきから眠気が。
朔太郎様。わたくし、なにか変なことを言ってはおりませぬか?』
「い、いえ。だ、大丈夫です。
さ、サクミ、さん。直接会うことは出来なくても、
リモートデートとか、お互いの様子を生配信するとか。
それに、密さえ避ければいいのなら、
お互いに距離をとって、どこかに一緒に行くとか。
会話はスマフォでも構いません。
それなら、マスクをつけなくても話ができます。
サクミさんの素顔を見ながら話がしたいんです。」
『朔太郎様。それって……プロポーズ、ですか?』
「あ、いや、そ、そこまでは……。」
『ですよね。朔太郎様は先程も申し上げましたように、
わたくしがどんな女なのか、全くご存じない。
わかりました。
お付き合いし始めれば、隠そうとしてもすぐにわかってしまうことゆえ、
お付き合いを始める前に、すべてお話しておきまする。』
「すべてを、ですか。」
『はい。ただ、それには少し準備も必要ゆえ、
今夜はここまででお電話を切らせていただきまする。』