引き抜きの交渉、お断りします-6
「は!? やっぱ移籍してえだと!? ざけんなコラ、んなこと許す訳ねえだろクソアマが!!」
梶谷は大変な剣幕で怒り出した。
「ついこの前、俺んとこから抜ける気はねえって言ったのはどの口だ、ああ!? 下の口か? ここか、おいっ!?」
事務所のソファに朱代を押し倒し、股に手を差し入れてくる。
「あんっ! あ、いいっ……」
正直に反応してしまう熟れた肉体である。
「くそっ……由梨絵のバカだけでなく凛子まであっさりとなびいちまうなんて……あいつらが俺の味方しなくて、誰がするってんだよ……」
激怒の勢いのまま、男泣きして挑みかかる梶谷だ。
身体をまさぐる必死な手つきが、朱代の年齢相応な母性本能をくすぐる。
結束を誓ったかと思えばすぐに離別を求め、すがりつかれるとまた離れがたくなってしまう。
我ながら信念の弱いことだと思うが、本能に逆らえず梶谷の激情を受け止める朱代であった。
「姐さんっ……姐さん、好きだっ! 俺の味方になってくれよ。俺のもとでAV界の女王になってくれ!」
梶谷の熱く猛る肉竿がニュルリと朱代の中に侵入した。
「ああんっ!」
撮影抜きで梶谷とセックスに至るのは初めてだった。
カメラを意識せずに思う存分あられもない声をあげられる解放感に酔い、朱代はすぐに昇天してしまった。
「わたしったら……どうしてきっぱりとはねつけられなかったんだろう」
帰りの電車の中、吊り革に掴まり揺られながら、朱代は自己嫌悪にかられっぱなしだった。
「あれって五条朱代じゃね?」
ひそひそと囁く男の声が聞こえた。
「マジかよ。あの極妻AV女優!? ヤッベえ、実物マジ綺麗じゃん」
「くそエロい身体してんな! チンポ勃ってきた!」
「金出せばヤラせてくれんじゃね? ギャラ五千円の激安らしいじゃん。一万出したら丸二日拘束しても感謝されるレベルだろ」
調子に乗って声が大きくなる男ども。
朱代はキッと睨みつけた。
大学生くらいのパリピ系男子二人だったが、極道女房の迫力にシュンとなって黙り込んでしまった。
──やっぱり、いけない。
自分という人間が、安物のオナホ同然に見られていることを実感した。
梶谷のところにいる限り、この屈辱は終わることなく続く。
抜け出さなくてはいけない。
梶谷への個人的な感情は、心を鬼にしてかなぐり捨てなければならないだろう。
意を決した朱代のもとに、新たな訪問者があった。
転機を迎えようとする朱代にとって、福音をもたらす訪問者が──。