引き抜きの交渉、お断りします-2
朱代はアダルト系情報サイトのインタビューを受けてきたところで、家の前で大谷と鉢合わせたのだった。
「よう朱代はん、久しぶりやなあ」
子分を車に待たせ、ずかずかと上がり込む大谷。
しかも、その隣にはまるで彼の所有物であるかのように付き従う梶谷由梨絵の姿があった。
「お姐さん、お忙しそうで羨ましいですね」
半ば軽蔑したような笑みとともに、経緯のかけらも感じられない挨拶をする由梨絵だった。
リビングに入るや、上座を占領した大谷は、まくし立てた。
「こんなこと言いとうないのんやけどな、梶谷のガキ、ええ気になりすぎとるでホンマ」
隣にいる由梨絵は、夫のことを悪く言われているというのに、ニヤニヤして頷いている。
「うちの会長の覚えがええからちゅうて、ばんばん朱代はんらのAV作りまくってボロ儲けするのは別にかめへんとして、その儲けを還元しよらんのはどういうこっちゃ。あのボケ自分だけ儲けまくるばっかりや。盃やったわしの顔まで丸潰れやで」
「そ、そうなんですか……?」
自分に入る僅かなギャラのこと以外、何も知らない朱代である。
「そこで相談なんやけどなあ、朱代はん」
大谷は思わせぶりな声を出して、朱代の目を覗き込んだ。
「あんた、梶谷のとこから抜ける気ぃあらへんか。わしが新しく会社作るさかい、そこに所属してくれへんか。待遇ようするでえ。基本ギャラ一本三百万出すのと、売れ行き次第で歩合手当もつけるわ。他のこまい仕事も正当に七三の割合、もちろん朱代はんに七割の配分で支払うよって」
「お姐さん、悪い話じゃないでしょう? わたしもAVデビューしたくて梶谷に一本二百万って打診したんだけど、あの人かなりシブい顔して、どうなるか分かったもんじゃないの。凛子は可愛い娘だからって依怙贔屓するくせに、わたしには冷たいのよね。こうなったら大谷さんの作る会社に預かって貰おうかな〜なんて考えてるのよ」
由梨絵が殊更に大谷とベタベタしているのは、どうやら夫への当てつけらしい。
ヤクザ廃業を心に決めて一家離散ののち、経済的な不安がのしかかってきた朱代にとって、大谷の示す一本三百万プラスアルファという話は魅力的だった。
実際、朱代の出演作はリリースのたび数字を伸ばしていた。
それは、取材してくれるメディア各社から具体的な数字となり朱代の耳に入っており、
(そんなに売れてるのなら、もう少しわたしに実入りが増えてもいいのに……)
という思いを強くせずにはいられなかったのだ。
朱代の頭の中ではフル回転で電卓が計算を弾き出していた。
もし大谷の話に乗れば、月あたりの収入はもしかすると現状の二百倍近くに跳ね上がる。
しかし……。
朱代の股は、キュンと疼いた。
──ずっと前から、姐さんとこうしたかった!
本心から言ってくれて、逞しい真珠入りの男根で穴という穴を貫く梶谷の顔が脳裏に蘇る。
膣穴、そして肛門のすぼまりをめくれ返らせながら出し挿れされる凶暴な引っかかり。
脳髄をトロトロにしてしまう快感。
現場で梶谷からもたらされる至上の悦びを思い返すと、それは無下に振り捨てられない素晴らしい体験として朱代の中にくすぶるのであった。