自転車に乗って-5
「素敵っすねえ」
と、相川君が云った時彼の上司があたし達に気付いて近寄って来た。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。隆ちゃん、彼女?」
上司はあたしを見て愛想良く笑った。あたしは一応会釈したけど、彼女って訳じゃないし。
つうかベタな質問だな。気持ちは解るけど。
相川君は返答に困っている。おい、友達って単語教えてやろうか?
あたしが声を出そうとすると、相川君は云った。
「秘密です」
なんだそりゃ!?
上司は慣れているのかわははは、と笑って去って行った。
「友達って云えば良いじゃん」
そう云ってやると、相川君はうーんと唸った。
「俺は川上さんが好きっすから」
はい?
「俺、川上さんが好きです」
にこにこと笑う彼。
物凄く嬉しいけど、スーパーで告白するな。
「あたしも好きだけど、スーパーで告白はどうだろう」
真っ赤な顔をして頭を掻く相川君。
「暗がりとかの方が良かったですか」
「その方が成功するらしいよ」
カゴを持ってない方の手で、彼の手を握った。
「覚えておきます」
相川君は、手にいっぱい汗をかいている。
一応緊張したんだね。
「アキラさんて呼んで良いですか?」
「アキラで良いよ。おアキとかはやだよ」
うーん、とまた唸ってから相川君―――隆之は云った。
「じゃあ、アキラちゃん」
何故ちゃん付け!?
「駄目っすか?」
「ううん、良いよ」
あたしは今日からアキラちゃんだ。
悪くない。
名前も好きになれるだろうし、なんか考えようによっちゃ可愛いかも知れない。
自転車に乗って、ここまで来てみて良かったと思う。
隆之に会えた。
あたしは、やっぱり幸せ者だ。