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自転車に乗って
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自転車に乗って-4

「そうっすか。俺カタカナのセンスないんですよね。時代劇好きだから」
「ああ」
だから長七郎とか云うのか。

「あの、でもごめんね」
「気にはしないっす」
そう云って笑うと、相川君は自転車を降りた。

「よければちょっと待ってて下さい。遅いから送るっす」
「は?いや、でも」
「俺、悪い奴居たら叩っ斬りますから。夜は危ないです」

叩っ斬ったら、お前が一番危ねえよ。

そう思いながら、あたしは何故か彼を待った。よく知らない相手だ、信じるのは馬鹿げているのに。

入口のベンチに座るあたしを見て、相川君は嬉しそうに笑うと、安くなったお惣菜の詰まった袋と鞄を自転車のカゴにつめた。

「明日の弁当のオカズです」
「え、じゃあサンドイッチは?」

いつも買うあれはなんだろう。

「あれはバイトの前に食うんです。腹減るから」
「ああ、なるほどね。昼しか売らないから、買っておくのか」
「ご名答です」

相川君は頷いて、それから帰るまでの間時代劇の話をしてくれた。

三匹が斬る話とか、暴れん坊の将軍の話とか、名奉行の話とか。

あたしは全然知らなかったけど、相川君が楽しそうに話すのが面白かった。

あたしが住んでるマンションまで、あっという間だった。気持ちもすっきりした。

「エレベーターとか危ないから、気をつけて下さいね」
「うん」
「またパン買いに行くっす」

あたしがエレベーターに乗り込むのを、相川君は見守っていた。

誰か怪しい奴が居たら叩っ斬るつもりなんだろう。
刀持ってないけど。



それからあたしは相川君に会うのが楽しみになった。

彼のにこやかな顔を見ると嬉しい。
どうやらあたしは相川君が好きなようだ。
アキラって名前も褒めてくれたし。

でも彼は高校生だ。
あたしとは年も違う。諦めたが勝ちだろう。

毎日会えて、ちょっと楽しければ良い。
付き合うなんて、きっと無理なんだから。そんな事を考えてた。

あたしは次の日が休みだと、なんとか気合いを入れて夜のスーパーに行く。
大抵相川君に会えるからだ。相川君はお勧めのお惣菜を教えてくれて、家の前まで送ってくれるのだ。

迷惑かな、と思うけど止められない。あたしはやっぱり情けない。

「川上さんは、やっぱケーキ屋を自分でやるんですか」
一緒にスーパーを歩きながら相川君が云う。
「うん。まあ、夢だね。いつになるか解んないけど」
その時は間違っても『アキラのケーキ』にはしないけどね。


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