自転車に乗って-2
ハタモト、なんだって?よく解らない。
なんだか解らないけど、あたしはどうやら心配されたようだった。
*
翌日。休みのあたしは、疲れつつも家事をこなして夕方スーパーに向かった。
あたしは職場から二駅のところで一人暮らしをしている。
夜なんかちょっと心細いけど、仕方ない。
今日は最近評判のケーキ屋に行こうと思ったのに疲れて無理だった。家事で精一杯。
あたしは情けない。
焦らないように、って思っても巧く行かない。
気晴らししようと思って、いつものスーパーじゃない、少し離れたところに行った。
違う景色は、なんだか楽しい。あたしは少し気が晴れて辺りを見回す。
そんな時、元気満々の声が聞こえて来た。
「いらっしゃいませぇぇえぇぇえ!」
うるさいくらいだ。ここは築地かよ。
そう思ってうるさい店員を見ると、あの高校生だった。
「あれ?」
思わず声を上げると、高校生は暫く悩んでからあたしに気付いたようだった。
「パン屋さんですね。いらっしゃいませ」
勢いよく頭を下げて挨拶をしてから、歯を見せてにかっと笑う。
アンタはポスターにでもなりたいのか。
「ここでバイトしてるの?」
「お陰様で、雇って貰ってます」
パンを買うお金は働いて稼いでたのか。
ごめん。あたしはこっそりと謝る。
「仕事の邪魔だね。頑張って」
「店員さんも」
「ありがとう」
あたしはちらっと、高校生の名札を見た。
平仮名であいかわ、と書いてある。
相川?愛川?どっちだろう。どっちでも良いけどさ。
アイカワ君に別れを告げ、あたしは買い物を済ませた。
*
それからあたしは何となくアイカワ君の居るスーパーによく行くようになった。
いつも元気に働いている。凄いな。若さか。
あたしに気付くと、アイカワ君はいつものでかい声で挨拶をしてにこやかに笑う。
あたしはこの顔に会いたいのかも知れない。自分の店で会ったんじゃ、あたしは偽物の笑顔をしてるから。
「あの、失礼だけど、あいかわってどう書くの?」
どっちでも良い事だった筈なのに、いつの間にか凄く気になってる。
「相対性理論の相に川で相川です」
「解りづらっ。その例え!」
あたしがつい突っ込むと、相川君は笑った。
「少しインテリを気取りました」
大根出しながらかよ。
「相川か。そうか」
「はい。相川隆之です」
大根一箱を並べ終わった相川君は、新しい箱を開けてまた大根を出す。