思い出はそのままに-44
外へ出ると、辺りは薄暗くなっていた。雨が振っているので、よけいに暗い。浩之は急いで家に帰る。
沙織にテープを渡す。沙織が交渉する。それで、全てが終わる。
『謝れ』と言う声が聞こえる。怒りが蘇った。こんなもので、済ませていいのか。祐樹をぶち殺すのではないのか。
浩之は首を振った。
最近はおかしくなってきている。変な考えばかりが、頭に浮かぶ。それは、抑えがたい衝動となって、浩之を苦しめるのだ。
家の前にきた。隣を見れば、祐樹の家がある。
祐樹はいつも何をしているのだろうか。あの広い家で。しかも、一人なのだ。今まで、そんなことは考えたことがなかった。しかし、どう考えても、祐樹のやってきたことは異常だ。祐樹自身に、何か鬱屈したものがあるのかもしれない。
浩之は考えるのを止めた。意味のないことだ。家に入ろうとした。
人影があった。この雨の日に、傘も差していない。
「美由紀ちゃん!」
浩之は叫んだ。
「こんなところで、どうしたの!?」
「う、うん・・・祐樹の所に、用があって・・・」
嘘。考えなくてもわかる。でなければ、ずぶ濡れで立っているはずがない。
「とにかく、家に入ろう」
美由紀がうなずいた。美由紀の目は赤くなっていた。泣いていたのだろうか。
とにかく、今は美由紀をどうにかしなければならない。浩之は、美由紀に腕を回すと、家の中に招き入れた。美由紀は嫌がらなかった。
「ごめんなさい・・・」
「なに謝ってるんだよ。さあ、入って」
浩之は、美由紀をソファに座らせると、タオルを持ってきた。
「ありがとう・・・」
沙織は全身ずぶ濡れだった。制服が透けて見える。浩之は目のやり場に困った。
沙織は、浩之が持ってきたタオルで体を拭いているが、なにせ全身がずぶ濡れなのだ。このままではいけない。本当は、祐樹の家に連れて行くのがいいのかもしれない。だが、祐樹に会いたくはなかった。
「美由紀ちゃん。とにかく、シャワーを浴びたほうがいい。着替えは・・・ないけど、俺のを貸しとくから」
「でも・・・」
「このままじゃだめだよ。風邪をひいてしまう」
浩之は、美由紀の手を掴むと、浴室の方に連れて行った。
「じゃあ、俺、着替え持ってくるから」
「うん・・・ごめんね」
美由紀が微笑んだ。心臓の鼓動が跳ね上がった。恥かしくなって、着替えを探しに行った。
美由紀は、意外に元気なようだ。大したことではないかもしれない。美由紀は、少し普通とはずれたところがある。国語の授業の時、教科書の小説を見て、いきなり泣き出して授業を中断させた彼女を、理解するのは難しいことかもしれない。
とにかく、浩之は自分の服の中から、美由紀が着れそうな服を探した。Tシャツと短パンでいいと思った。さすがに、下着はない。
「ねえ。着替え、置いておくから」
「うん。ありがとう」
浩之は、浴室のドアの前に、着替えを置いた。美由紀のバッグも置いておく。
ドア越しに、美由紀がシャワーを浴びている音が聞こえた。浩之は、美由紀がシャワーを浴びている所を想像した。
この家に、浩之と美由紀以外誰もいない。父親は単身赴任で、母親は帰ってくるのが遅かった。つまり、今なら何でもできるということだ。
浩之は首を振った。最近はおかしい。すぐかっとなるし、欲情も抑えきれない。美奈を犯すように、何回も抱く。その時は、頭の中で美由紀を犯しているのだ。
『謝れ』という声が聞こえる。これが、浩之をおかしくさせるのだ。この声は、日増しに大きくなってきている。
浩之は、冷蔵庫からジュースを取り出すと、居間にあるソファに座った。
すべての原因は祐樹だ。祐樹がいるから、この声が聞こえる。このままでは、浩之は本当に狂ってしまう。その前に、何とかしなければならない。
ドアが開く音が聞こえた。
「ごめんね。迷惑かけちゃって」
美由紀が申し訳なさそうな顔をした。シャワーを浴びたからだそうか、頬が上気していて、大丈夫そうに思えた。
「いや、いいんだよ」
浩之は美由紀から目をそらした。
美由紀は知ってるのだろうか。美由紀は、浩之が貸したTシャツを着ていたが、ブラジャーを着けていないからか、乳首が浮き出していた。もし、知っててやっているならば、相当なものだ。浩之も恥かしくて、それを言うことは出来なかった。