思い出はそのままに-4
「やあ、お兄ちゃん。早かったね」
玄関のベルを押すと、祐樹が出てきた。それにしても、でかい家だ。ここに、祐樹は父親と二人で住んでいる。お手伝いの人はいないようだ。寂しくはないのだろうか。二人で住むには、この家は大きすぎる。しかも、祐樹の父親はいないことのほうが多いのだ。
「入って」
「じゃ、おじゃまします」
浩之は中に入る。中も、かなり豪華だ。祐樹がドアのようなものの手前で立ち止まった。ボタンを押す。ドアが開いた。
「エレベーターかよ」
浩之は半ば呆れ顔でつぶやいた。やはり、普通とは違う。
「たいしたことじゃないよ」
祐樹が鼻で笑った。
浩之は笑われたと思った。自分とは違うというのか。頭に血がのぼる。
これが、浩之の悪い癖だった。なんでも、悪い方にとってしまう。被害妄想が強すぎるのだ。近くでクスクスと笑われると、すぐ自分が笑われていると思う。しかも、それを忘れることが出来ない。
祐樹がエレベーターの中に入った。浩之も入る。祐樹がBと書いてあるボタンを押した。エレベーターが下に降りるのを感じた。
「最初は驚くと思うけど、きっとわかってくれると思うよ」
祐樹が微笑んだ。気味が悪かった。ドアが開いた。目の前の光景に、浩之は言葉を失った。
「なっ、なにやってるんだ・・・」
「ふふ、驚いた?」
浩之は祐樹を見る。嘲るような、自慢するよう目だった。
「おっ、祐樹きたな。その兄ちゃんが今日のゲストなのかよ」
「うーん、ちょっと違うけど。紹介するよ。浩之お兄ちゃんだよ」
祐樹の同級生だろうか。二人の少年がいる。そして、女に子がいる。
「うーんと。こっちが、健太」
「おっす」
「そして、武士」
「どーも・・・」
「彼女は・・・紹介しなくていいよね」
美奈だった。健太のペニスをくわえている。三人とも裸だった。
「ああっ・・・美奈・・・気持ちいいよ・・・」
健太は美奈の頭を掴むと、腰を動かした。
「んん! ん・・・あん・・・むうううっ!」
美奈は苦しげな声をあげた。それでも、健太は止めようとはしない。
「おいっ! おまえら、なにやってるんだっ!?」
「なにって、セックスだよ」
「セックスって・・・祐樹、意味がわかって言ってるのか!?」
「ははっ、セックスに意味なんてあるの?」
「意味があるのって・・・おまえ・・・」
浩之は言葉に詰まった。
「まさか、セックスは愛し合う者同士がしないといけないなんて、言わないよね」
祐樹が嘲りにも似た口調で言った。おまえはしたことがないのだろう。そう言っているような口調だった。かっと頭に血がのぼる。だが、本当のことだった。言い返すことは出来なかった。
『謝れ』という声が聞こえる。あの時の光景が、頭に蘇る。ぶち殺してやる。あの時、そう思った。それでも、浩之は黙って頭を下げた。子供たちは、浩之を見下すような目をした。浩之を笑った。あの時の屈辱は忘れたことはない。浩之は、唇を噛み締めた。
祐樹は、浩之をばかにしている。浩之を笑っている。許すことは出来ない。ぶち殺してやる。俺をばかにする奴はみんなぶち殺してやる。そう思った。
幻聴だ。浩之は、その声を頭から振り払おうとした。だが、その声は頭から離れなかった。
「セックスなんて、楽しめればいいんだよ。テレビゲームと一緒、楽しいからやる。それだけでしょ」
「セックスは遊びじゃない」
「遊びだよ。こんなたのしい遊び、早くからしとかないと、絶対損だよ。妊娠したら大変だけど、美奈はまだ初潮まだだって言ってたし」
「イカれてる」
「ふふっ、お兄ちゃんは、ボクらが子供だから、そう思うだけでしょ。ひょっとして、お兄ちゃん。自分がしたことがないからって、嫉妬してるんじゃないの?」
祐樹は笑った。浩之をばかにしたような笑い。見下した目。