思い出はそのままに-29
「もう、浩之くん、意地悪なんだから。うちの学校、そんなに厳しくはないよ。それに、遊びに来たわけじゃないし。人を待ってるだけだから」
美由紀が、頬を膨らませながら言った。多少、わざとらしいが、嫌いではなかった。
「ふーん。人を待ってるねぇ。援交じゃないよね?」
「もう、そんなわけないじゃない!」
「ふーん」
「もう! 浩之くん、意地悪なんだから!」
浩之は笑った。それを見て、美由紀も笑った。
「でも、美由紀ちゃん、変わってないね」
美由紀は、明るい女の子だった。だから、みんなに好かれていた。浩之のように、陰にこもった人間とは違う。それは、今も変わっていないようだ。
「そうかな?」
美由紀が首を傾げた。
「いや、変わったかな」
外見は変わった。昔から綺麗だったが、更に綺麗になっている。より、洗練された美しさになっていた。また、浩之より遠ざかったような感じがした。
「もう、どっちなの?」
「美由紀ちゃんは、どっちがいいんだよ?」
「うーん。私、変わったよ」
美由紀が、うつむきながら言った。
「私・・・おとなしい女の子だったでしょ。でも、それじゃいけないって言われたの。だから、変わろうと思って」
おとなしい。確かに、そうだったかもしれない。美由紀は明るいが、目立つのが好きではなかった。人見知りも、激しい方だった。
「だから! 私、もうおとなしい女の子じゃないのよっ!」
美由紀は、こぶしを握り締めて言った。真剣な顔だった。
「プッ」
浩之は思わず笑ってしまった。あまりに、急だったからだ。
「あっ、笑ったー。ひどいっ!」
「ゴメンゴメン。確かに変わったよ」
「もー。すごい勇気いったんだから・・・」
美由紀がすねた顔をした。それが、可愛かった。
それから、いろいろな話をした。学校のこと、昔の同級生のこと。他愛もない話だったが、楽しかった。