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水脈
【SM 官能小説】

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水脈-7

淡い淫毛の翳りは、少しずつ炙られ小さな炎になって焦げては消え、腿の内側の肌は微妙にひきつっている。K…はアケミの繁みを炙る蝋燭の炎に陶酔したように目をギラギラと耀かせていた。しだいに真っ白な腿の内側に熱がまどろみ、体の隅々が艶めかしく冴えわたる気がした。彼に操られる蝋燭の炎によって草むらがなびくように燃え、枯れるように火が消えると焦げた物憂い陰毛の燃えかすが、はらはらと床に舞い落ちた。

K…を愛してもいない、かといって愛そうともしない、そんな男に身をゆだね、汚され、痛めつけられることでアケミは自分の孤独に狂おしいほど酔いたかった。苦痛に身をひきつらせ、孤独をヒリヒリと焼く自分を感じたかった。遠くへ自分を押しやりたいのに男に痛めつけられる孤独だけを抱きしめたい自分がいた。愛おしいほど胸が熱くなり、視界が潤んだ。炙られる陰毛の匂いが少しずつ肉体の疼きと体温を奪い取り、切なく焦げ堕ちる自分を想い描いた。

 いつのまにかレースのカーテンの中の窓ガラスに烈しい雨が叩きつけている。雨滴が幾筋もガラスを這うように流れ落ちている。仄かな部屋の灯りの中で蝋燭の光だけがゆらめきながら漂い、滑車に絡んだ鎖がギシギシと軋み、宙に吊られた身体が微かに揺れると、アケミの体の影が彼の影に媚びるように重なっている。
K…は妖しい情痴に酔った目を澱ませながら立ち上がる。そしてアケミの乳房の上に掲げた赤い蝋燭をゆっくりと旋回させる。彼が操る蝋燭から滴る熱蝋は紅色の濃厚な色を放ち、美しい筋を肌に描いていく。次々と垂れてくる熱蝋は乳首の上で蕩け、乳房の谷間を流れ、腹部の鳩尾に溜まり、肌を熱い痛みで刻む。

ああっ………あうっ……

それは苦痛の叫びでも悲鳴でもない、心と体の孤独が物憂く絞り出されるような嗚咽だった。
垂らされる蝋滴は、めまぐるしくアケミの白い肌を駆けめぐり、赤い筋を描き、少しずつ下半身の中心に向かう。笑みを浮かべたK…は彼女の肉体の中心の真上で蝋燭の動きを止める。そして肉の割れ目に向ってゆっくりと蝋燭を傾け始めた。赤い熱蝋が真っ白な太腿に滴り、腿の付け根の白い肌の上を赤い糸筋のように蝋がすっと流れていく。
澱んだ空気が不意に動きを止めたとき、熱蝋の滴りが陰毛をなびかせ、肉の合わせ目を襲った。

あぐっ……ううっ…………

次々と陰部に垂らされる熱蝋……。アケミは皮膚を剥ぐような痛みを受けながらも体の奥底で息づくような肉襞の蠢きを感じていた。えぐれる肉唇の溝を、赤い熱蝋が斑模様に包み込んでいく。小刻みに震える花芯から微かに蜜汁が溶けだし、熱蝋で赤く染まった肉唇まわりに滲んでくる。
K…が手にした蝋燭の炎はかすかな空気の澱みにゆらめき、不気味なほどに彼の顔を妖しく染めている。体を吊った鎖の烈しい軋みとともにアケミは白い太腿をすり寄せ、悩ましくもがく。
アケミは、K…に虐げられている気持ちが強くなるほど、熱蝋で犯される苦痛は根拠もなく彼への従属的な快感を彼女に与えた。炙られ、痛めつけられる心と軀(からだ)は、彼の中にある暗がりに迷い込み、抱きしめられ、身を裂かれて堕ちていく……どこまでも、いつまでも……鮮明に孤独を彩りながら。


K…は、翌日、仕事でシンガポールに出かけていった。
空港まで見送りに行くと、すでに彼の妻らしい女が彼に寄り添っていた。女は彼の首元のネクタイを整えていた。その装いから妻はK…といっしょに旅立つことがわかった。アケミは思わずふたりの姿から逃げるように喫茶店に入った。K…の存在が遠くなりながらも目の前の光景はとても近く感じた。
喫茶店のガラス越しに、のぞき見るようにふたりの姿を追った。背筋が美しく伸びた、身体の輪郭がはっきりしたモデルのような背の高い、若い妻だった。アケミがすでに失ったすべてのものを彼女はもっていた。若い女だけが持つことができるもの……それはアケミにとって必要以上の若さであり、必要以上の肉体であり、必要以上に男を惹きつける容姿にさえ見えた。
K…の手が妻の腰にまわされたとき、アケミは怯えるような冷たい孤独を感じた。自分が彼にとって必要とされないものにさえ思えてきた。肉体だけが記憶しているK…という男に対する自分の孤独にふとため息をついた。ふたりは、人ごみに紛れるように搭乗ゲートの中に消えていった……。



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