水脈-12
要するにおまえは、私を裏切ってあの若い男とつき合っていたということだな。K…は興奮するようにアケミを初めて呼び捨てにし、拘束した椅子のまわりをゆっくりと立ちまわった。
重たく、ゆるぎのない声だった。吐き捨てるような響きはアケミの胸を締めつけた。彼の平手が頬をぶった。堅く、冷たく、彼の怒りを含んだ、ざらりとした掌は、まるで彼の性器のように頬に痛みを刻んだ。
まだ、わかっていないようだな、おまえが私のものだということを……。
彼は唇から離した煙草を指でつまむと、火のついた煙草の先端をゆっくりとアケミの乳首に近づけた。煙草の煙に燻られるように乳首が微かに蠢く。
私が、どんな罰をおまえに与えようとしているか気がついているようだな。薄く笑った彼が摘まんだ煙草が、肌とほんのわずかな距離を保ちながら乳房の輪郭をなぞり、徐々に下腹部に向けられる。立ち上る紫煙がアケミの肌を燻すように肌を這っていく。
彼の眼は本気だった……彼自身の冷酷さに、そしてアケミの癒された孤独を無残に裂くことに。
アケミは、彼に向かって言った。彼はわたしの足の指爪をきれいに切ってくれたの。とても長い時間をかけて。ただ、それだけだわ。
なぜ、そんなことを言ったのか、アケミは自分でもわからなかった。あえて言うなら、アケミは、K…が彼女の足首に革枷をするとき、彼女の指爪の変化にすでに気がついていたことを感じ取ったからだった。
嘘を言うな。それだけなのか、その若い男がおまえにしたことは。それだけではないだろう。K…は冷ややかに笑った。
彼はわたしの足の爪を切ったあと、一晩中、足指だけを唇に含み、愛撫を続けていたわ、わたしのすべての指を一本、一本……と言ったとき、K…の顔が微かに赤らんでくるのがわかった。
足指以外に、その若い男は、おまえの体のどこにも触れなかったというのか。それだけで、きみは充たされたというのか。そんなはずがないだろう。彼は語気を強めて、鋭い声でアケミに迫った。
アケミは怯えるようにK…の視線から顔を背けた。アケミの心と肉体の隅々まで、おそらくK…がこれまで触れたことも感じとったことのないところまでユフキが充たしたことに、K…は烈しい屈辱と嫉妬を懐いていることが、彼の顔にはっきりと現われていた。
アケミの足先でK…が指先につまんだ煙草の先端が旋回をする。足の甲から側面、そして足裏へと煙草の煙が絡んでくる。革枷で拘束された足首がぎゅっと絞まるように強ばる。火の熱さをじわりと足肌が吸い込み、足指が弓なりにそそり立ち喘ぎ始める。
正直に言うのだ、おまえは私を裏切ってその男に抱かれたのか。これまで見たこともない獰猛な眼をした彼は片方の手でアケミの髪を鷲づかみにして、ぐっと頬をしゃくりあげた。
煙草の火熱が足の指にじりじりと迫ってくる。引きつった身体の緊張が腿の内側やお尻の肉を収縮させ、小刻みに震えている。
――や、やめて、お願い……ゆるして………
次の瞬間、K…はアケミの足指のあいだに強く煙草の先端を押しあてた。まるでユフキの唇の痕跡をかき消すように。鋭い痛みが皮膚に突き刺さり、身体が弓なりにのけ反ると肉奥が烈しく痙攣した。脚先から鋭い電流が走るような痛みが腿の内側を強ばらせた。しなった体から悲鳴とも嗚咽ともつかない喘ぎ声が唇から洩れ、自分の中の孤独が烈しくもがいた。ユフキに美しく磨かれた足指の爪が醜くゆがみ、喘ぐようにそそり立っていた。
部屋の仄かな灯りが、煙草をつまんだ彼の指先だけに媚びるように集まってくる。手首と足首を拘束椅子に締めつけたベルトが小鼠の啼き声のように軋む。
K…はニヤリと冷酷に笑い、まだまだおまえの悲鳴は悦んでいないみたいだな、と言いながらアケミに押しつけた煙草を深く吸った。そして、彼の煙草の先は、さらに脚先から這い上がるように舞い、漆黒の陰部の真上にかざされた。とても近いところから煙草の煙と熱が陰毛まぶしていくのを感じた。
やっ、やめて……ゆるしてください…………
彼が何をしようとしているのか、アケミの恐れは敏感に彼の次の行為を予感していた。汗が微かに首筋を滴り、胸の谷間を湿らせる。肉襞が痙攣し、ぎゅっと縮んだ肉洞がねじれる。
私の命令に背いた罰を十分に味わうことだな……。
そう言った彼は、煙草の火を陰毛の中でもみ消すように強く押しつけたのだった。陰唇を裂き、ちぎれるような痛みが身体全体に走り、肉襞が裂け、子宮が燃え尽きてしまいそうだった。
悲鳴は自分の耳に届くことなく、部屋の中に吸い込まれていった。意識が薄くなってくる。下半身がゆるんだ。そして、白い腿の内側を滲み出た尿液が糸を引くように這い、床に滴り落ちたのが見えた……。