おりん-2
……おりんちゃん、丸裸だったそうですよ、着物を脱がされて気を失ってたそうで……正吉はおりんちゃんを守ろうと立ち向かったのかもしれませんねぇ…………ええ、確かにその時八つです、そんな小さい子に妙な気を起こすなんてねぇ……でもね、おりんちゃんってのは不思議な雰囲気の子でしたし、子供とは思えないくらいに奇麗な子でしたからね、人ひとり刺して気が立ってたとすれば、盗人が妙な気を起こしたってのもあながち……まぁ、人としてやっちゃあいけねぇことには違いありませんがね。
…………え？…………ええ…………そうですな、確かに妙ですな、盗人は正吉を刺して金を奪った上におりんちゃんを手篭めにしようとした、正吉は最後の力を振り絞ってすがり付く、もみ合いになって心の臓を一突きにされた正吉はこときれた……そんなところじゃないかと思うんですがね…………へぇ、お役人様もそうお思いになる？ そうでございましょうねぇ、でも、そのとおりだとしたら、もう邪魔者はいませんや、人を殺めて気も立ってる、そこへもってきておりんちゃんを裸に剥いたと来れば、後やりそうなことぁ決まってまさぁ、手篭めにされた挙句に殺される、普通はそうじゃありませんか？
……でも、でもですよ……おりんちゃんは手篭めにもされなければ殺されもしなかった……あべこべにね、盗人の方が死んでたんですよ、いえ、刺し傷なんざありゃしません、首にね……首に何かが巻きついたような青痣があったそうですよ、…………ええ、正吉の仕業じゃありません、だってそうでございましょう？ 何しろ心の臓を一突きにされてたんですからな、とっくに息絶えてたんじゃありませんかね？それに、もし首を絞めてるところを刺されたとしてもですよ、そのまま絞め殺せるわきゃぁありやせん、そうじゃありませんか？
……だとすると……だとすると一体誰が盗人の首を締めたんでしょうな？……八つの女の子が大人を絞め殺せますかい？ それも刃物を振り回す大の男を……。
それにですよ、親分さんの話じゃ指だの縄だのの跡じゃなかったそうで……まるで刺青みたいな鮮やかな痣だったそうですよ……。
へへ、こうして改めてお話しますとね、少しばかり怪談じみてまいりますなぁ……あっしは店仕舞いの後ちびちびとやるんですが、お役人様もいかがで？…………まぁそう固い事を仰らずに、もうこんな夜更けでもございますし…………そうですか？ じゃあっしも茶で…………え？ 構いませんかい？ それじゃお言葉に甘えさせていただきまして……茶も淹れて参りやしょう、少しお待ちを……」