春間近、別れをひかえて-4
その夜、キジ斗は社宅である自宅の部屋の床に座り、部屋いっぱいに並ぶさまざまなフィギュアや、本棚の本の背文字を眺めながらぼんやり考えていた。
(明日、どんな顔して学園に行こう…… 某祥さんに謝っておくべきだよな…… )
いきなり、部屋の扉が開いて父親のコウキが入ってきた。
いつものキジ斗なら「何だよ、入るんならノックぐらいしろよ!」と言うところだが、父親の張りつめた表情に ただならぬものを感じて何も言えなかった。
「キジ斗!」コウキが声をあげ「はい……」キジ斗は弱い返事をした。
「お前……」コウキは部屋を見回して言った。「ここのフィギュアとか本とか、玉都に引っ越す前に全部処分しておけよ。」
「ええっ?」キジ斗は立ちあがった。「やだよ。俺、小さいころからずっと集めて来たやつだもん。」
「バカか?」コウキは言った。「玉都では小さなマンションに住むんだ。こんなもの置ける場所なんか無いぞ。」
「トランクルームとか借りられないの?」
「バカか、そんな余裕あるか。ここの社宅なら家賃や光熱費とかタダみたいなものだったが、玉都に移ったらそういうモノも払っていくんだからな。」
「そんな……」
「そんな、じゃない。キジ斗、俺はずっと玉都で一旗あげることを夢みて来たんだ。それが叶うチャンスなんだ!俺は全てをリセットして玉都に向かう。お前も今までの地方暮らしで得たものなど引きずるな!」
「そんな……むちゃくちゃだよ……」
そう言うキジ斗に、コウキは顔を近づけた。
「今まで聞いてこなかったが、お前、学園の成績はどんなものだったんだ?」
「…………」
「今日聞いた話では、玉都の学校はこのへんのトップの成績が、及第点にやっと届くレベルらしいぞ。」
「…………」
「お前、3年生だぞ。ここの学園は希望すれば、k等にも普通に入れるが玉都となるとそうはいかんぞ。」
「…………」
あまりにキジ斗が落ち込む表情を見せたためか、コウキは慰めるように優しく言った。
「俺はいつまでも、狭いマンションなんかにいないよ。どうだ、どうしても捨てたくないフィギュアとかは、しばらくここの友達に預かってもらうとか、どうだ?」
しかしキジ斗には、そんな提案は逆効果だった。
(そんなやついないよ…… そんなやついないよ…… そんなやついるわけないよ……)
それに追い討ちをかけるようにキジ斗の心に、非常階段で聞いたひろ子の声がよみがえって来た。
「こんなことぐらいで、萎えて抜けないようじゃ
玉都のオンナの子は、誰も相手にしてくれないよ。」
【おしまい】