是奈でゲンキッ! 番外編 『シークレット・ガールズ』-11
およそ数十発のミサイルの群れは、ガーディアンZのみならず、所構わず炸裂して、周りの建物までも容赦なく破壊する。
突然街のど真ん中で始まった、戦争じみた戦いに、通行人の誰しもがパニックを起こし、被害を被(こうむ)ったビルまでもが炎上し、倒壊を始め。投げ惑う人々の中に、燃え盛る大型トラックまでもが突っ込んで、最早そこには、平和な都市の姿は無かった。
さすがにこれだけの攻撃を喰らっては、ガーディアンZとて無傷では居られなかったらしい。倒壊したビルのガレキを掻き分けて姿を現すも、負傷した左腕の傷口を押えながら、痛みに顔を歪ませていた。そして、そんな彼女の肩から滴り落ちる鮮血も、黒焦げた台地を赤く染める。
「もう止めて……」
傷を負い、全身ボロボロになりながらも、ガーディアンZはそう願って止まない。
たとへ戦う相手が誰であろうと、彼女としては、人を傷つけたく無い事に変りは無く。ましてや、それが同じクラスメイトともなれば、なおさらだった。
彼女はそれでも、睨み付ける様にして、ジリジリと都子に歩み寄り。
そんなガーディアンZの姿に、都子も一瞬、怯(ひる)みもする。
だがそんな時である。
「いっ、いけない…… 薬が切れる」
どうやらガーディアンZの力の源である『細胞強化活性剤』の効き目が切れてきたらしい。全身をバリヤーのように覆っていたオーラも消えて、逆立っていた真っ赤な髪も、力無くしよれる様に垂れ下がると、その色をもとの黒髪へと変えて行った。
「フッ……フフッ…… そう言う事だったのね、並みの人間に『細胞強化活性剤』なんて使えないと思っていたけど…… そう、貴方是奈ちゃんだったの…… フッフフフ、なるほどようやく解ったわ是奈ちゃん…… 貴方の異常なまでの体力と、運動神経の良さの秘密がね」
薬の効き目が切れ、元の是奈の姿にもどった彼女を見て、都子も戦意を失ったのだろうか。そんな事を呟きながら、俯いて、しきりに首を横に振って居た。
「それが解ったと言うのなら、あたしも佐藤さんとはもう戦いたく無いわっ。お願い、もう止めにしましょうよ」
だがたとえZの正体が是奈だと解っても、最早後戻りなど出来ないと言った所なのだろうか。なんとも奇妙な薄ら笑いを浮かべながら、都子は俯いたまま、首を横に振るだけである。そんな彼女の瞳からは、大粒の涙が溢れ、足元のコンクリート片を、濡らしもする。
「是奈ちゃん…… 次で決着をつけましょう。あたしたちお友達でしょ。だからあたしは貴方を、長く苦しめたくは……ないのよ」
「どうしても戦わなきゃ駄目なの、佐藤さん!」
都子はまたゆっくりと首を振り。
「きっと貴方が死んだら…… あの人が悲しむでしょうけど…… でもね是奈ちゃん、貴方がいけないのよ」
「佐藤さん…… 何を言ってるの」
「貴方なんか…… 貴方なんか………… 貴方なんか死んじゃえばいいのよっ!!」
それは戦闘サイボーグ都子最大の武器で有っただろう。
両脚を開いて身構えると、両腕を前に倣え(ならえ)の様に突き出し、全エネリギーを両腕へと集中させた。同時に腕の間から火花が散り始めると、それは丸で、電極の+(プラス)と −(マイナス)の間でもって飛び交う高出力な電流の如く、雷の塊となって、たちどころに都子の身体全体を覆い尽くして行った。
「こうなったら、仕方が無いわっ!」
是奈は急ぎ残った『細胞強化活性剤』を懐から取り出すと、
「今日はこれで3本目ねっ、あたしの身体もどこまで持つか解らんけど…… やるしかないのねっ!」
一瞬躊躇いもするが、一気にそれを飲み干し、覚醒した力を最大限に引き出して、そのパワーの全てを使って大きな光の玉を作り、都子と対峙する。
どうやら是奈も、避けては通れないこの戦いに終止符を打つべく、都子の攻撃を真っ向から迎え撃つ覚悟だった。