ゆえとナオさん 未来編-3
ある年を境に、
世界中で女の子しか生まれてこなくなる。
年を追うごとに、男児の出生が少なくなる。
世界人口統計の、
男女比率にあきらかな偏りが現れる。
男の子が産まれなければ、
世界人口は尻すぼみに減ってしまう。
世界中の保健機関が原因を調べた。
伝染病の流行が疑われて、
すぐにウイルスの、
ゲノムの塩基配列の解読が始まった。
その結果、新型ウイルスが同定された。
新興感染症だった。
そのウイルスは、
Y染色体の、SRY遺伝子の機能に影響を及ぼす。
このウイルスに、
ヒトの女性が感染しても何も起きないけど、
男性が感染すると雄性の発現が妨げられる。
つまり、
Y遺伝子が後世に受け継がれなくなる。
男の人がいなくなる。
偶然に、
ウイルスの塩基配列の冗長部の繰り返しに、
意味があることに数学者が気がついた。
U+26A2
つまり、Unicodeで⚢。
女性同性愛とスタンプされていたのだ。
遺伝子組み換えウイルスだった。
遺伝子工学で作られた生物兵器だったのだ。
そのレトロウイルスは、
ゲノム編集で人工的に作られたものだと分かった。
免疫を持っていた人なんて誰もいない。
未知のテクノロジーで精妙に作られていて、
ワクチンを作ることができなかった。
その人工ウイルスは、
ヒトの遺伝子を不可逆的に変えてしまった。
人類全員を真綿で首を絞めるような、
悪意の固まりみたいな遺伝子兵器だった。
人類の未来は閉ざされた。