恐怖の保護者会 二次会前哨戦-2
オレが立ち尽くしていると、篠田満二郎の母親が近づいてきた。
「先生。満二郎の母です。
今日の二次会はわたしが幹事になっていますので、よろしく。」
「は、はあ。よろしくお願いします。」
「じゃあ、先生。そろそろ参りましょう。
あ、先生。わたし、あゆみです。篠田あゆみ。あゆみって呼んでくださいね。」
「あ、はい。あゆみさん。」
「先生。二次会では、さんは無しですよ。年功序列も無し。
先生方も、敬語は無し。」
「敬語も無し、ですか?」
「ええ。会場の中では、ですけどね。」
「会場?」
「はい。今夜の二次会は、〇学校とも合同で、3つの会場に分かれて行われます。
先生は、わたしと一緒の橋本さんのお宅で。」
「橋本?橋本泰代さんの家、ですか?」
「ええ。あそこは男の子が4人。泰代ちゃんの上に3人のお兄ちゃん。
3人とも今夜は参加されるみたいですよ。
下のお兄ちゃんが18歳になったって言ってましたから。」
「保護者会に子どもたちが参加するんですか?」
「ええ。男の子は18歳以上。
女の子たちはおもてなしが済んだ子たちが参加できます。」
「おもてなしが済んだ子?」
「あ、うちのクラスの子たちは、もちろん、まだですから。
でも、お姉さんが参加されるおうちもあると思います。
朔太郎君のところのお姉ちゃんたちは参加されるみたいですから。」
オレは名前が出た子どもの顔を思い浮かべては、その姉や母親の顔を想像していた。
(朔太郎?今日、思わずカミングアウトしたあの、朔太郎の姉、かあ。)
「まあ、誰が誰だか、わかりませんよね。」
「ええ、名札でもつけていてくれればいいんですけどね。」
「あら、自己紹介の時にも名札もありませんし。
たとえあったとしても、会が始まればそんなものも役に立ちませんし。」
「役に立たない?」
「ええ。付ける場所がありませんもの。」
「???」
「いいんですよ。先生方はもてなす側ですから、
誰が誰かわかっていなくても問題ありません。」
「はあ。」
「先生。案ずるよりは産むが易しです。さあ、行きましょ。」
あゆみはオレの腕をとると、まだ話を続けている母親たちの間を通り抜けて教室を出た。
「あら、いいわねえ。」
「あ、今夜は篠田さんが幹事?うらやましいわぁ。」
幹事が羨ましがられる二次会?
幹事なんて、みんなのご機嫌を取って、会計までやらされて、
引き受けるもんじゃないとオレは思っているのだが、
ここの二次会という名の会合の幹事は、
周りの母親たちから羨望の眼差しで見られている。
いったい、何が羨ましがられるのだろう。
あゆみに引きずられるようにしてオレは職員玄関まで来た。
階段を降りるとき、あゆみはオレの腕を意図的としか思えないほどの強さで、
自分の胸に押し付けていた。
その感触がなんであるかがわかった瞬間から、オレの身体は反応し始めていた。
麗子の家に招かれ、想像を絶する酒池肉林の世界を味わったあの日以来、
オレは一度も女を抱いてはいなかった。
いや、あの日だって、オレにとっては何日ぶり……いや、何週間ぶり……。
いや、正直、まえに女を抱いた記憶さえ薄れていたくらいに久しぶりのことだったのだ。
教室で麗子に言われたように、確かにオレには彼女やいない。
いや、ほとんどいない期間がオレの青春時代だった。
オレは、いつ来るかわからないその日を目指して自主練を積み重ねてきただけだ。
しかし、人生、努力していれば、いつか必ず報われる日が来る。
その日があの日だったのだ。
神様は次にまた、千載一遇のチャンスがあるまで、またオレに自主練を命じたのか?
オレはこの数週間、ずっとそう思ってきた。
教室での若菜の際どい接触を交わし、麗子の話術に騙されないように努め、
臨時任用としての責務を全うしてきた。
自分の部屋の戻ってからも、子どもたちの写真をおかずにしてのオナニーなど、
一度もしたことはなかった。
ただひたすら、あの日のヒカルとユリカの肢体とともに繰り広げた、
あの淫靡な世界を思い返しては、発射ぎりぎりまで自分を追い込むとおいう、
かつての特訓を再び重ねてきたのだ。
ぎりぎりの感覚を味わうことばかりで、あれ以来、射精そのものをしたこともなかった。
保護者会での緊迫した雰囲気に緊張し、
身体全体が硬直するほどの悪夢の時間から解放された油断からか、
あゆみの胸のふくらみの刺激で、オレのジュニアは早くも臨戦態勢になっていた。
「先生?なんか、歩き方がぎこちなくなくないですか?」
あゆみは、そんなオレの状態を知ってか知らずか、
顔がぶつかりそうになるほど接近して、オレに話しかけてくる。
「あ、いや、そんなことは……。」
自分でも声が上ずっているのがわかった。
そんなオレに畳みかけるようにあゆみが言った。
「先生。今、メールで確認したところ、橋本さんのお宅に集まるのは、
保護者が4名。成人した子どもたちが5名。
先生方は、先生も含めて3名だそうです。」
「はあ。」
「男女別も知りたいですか?」
「はあ?」
「保護者は全員が女性。子どもたちは2人が女の子。男の子は3人。
先生が女性一人に男二人。橋本さんのおうちはご主人がもう無理と言う事なので、
成人男性は先生方二人だけですね。」
「はあ。」
「でも、橋本さんのところの男兄弟は、
もうおもてなしにずっと加わってきていますから、十分頼りになると思います。
もちろん、先生は、わたしを中心に考えてくださいね。わたしが幹事ですから。」
「は、はあ。」
オレはあゆみの話に相槌は打ったものの、
いったい何のことなのかはさっぱりわからなかった。