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楽園教室
【学園物 官能小説】

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恐怖の授業参観-2

そして迎えた5時間目。
授業参観が始まった。
教科はどのクラスも道徳だ。
学校全体で道徳的な子どもを育てていますのアピールをするつもりなのだろ。
道徳なんて言うものは決められた時間の中で教えるものではない。
日常の、ごく普通の場面での子どもたちの行動や言葉を取り上げてこそ、
子どもの心に響くものになるのだ。
それを一律に、前もって準備をしている道徳なんて、似非宗教と同じだ。

そう思ってはいても、前もって予定を出さねばならない以上、
それ以外の教科を行うことは不可能だった。

だから、オレはオレなりに勝負に出た。
参観の保護者から、この時間のテーマを出させようと考えたのだ。

親が疑問に、あるいは不思議に思っている教育問題について、
子どもなりの考えを戦わせていく授業。
それなりの意味も、価値もあると、オレには思えた。

教師だって、当たり前とか普通とかいう常識にばかりとらわれずに、
時には冒険してみることも必要なんだ!!!

結果は知らないけどさ。。。。。。



「起立!」
「礼」
「着席。」

5時間目の授業が始まった。
オレはいきなり教室の後ろに並んでいる保護者に問いかけた。
「今日の道徳の授業は、保護者の皆さんが、普段感じている学校や教育、
 子育ての悩みや問題について、子どもたちなりに考えてみようというのがテーマです。
 普段の子育てや学校での教育について、
 疑問に思ってらっしゃることや聞きたいことなどありませんか?」

これには問いかけられた保護者の方が戸惑ったようだ。
自分は明確な意見は持っていないくせに、
何か事を見つけては思いつくままに文句を言うのが保護者だ。

明確な反対理由や対案などもっともいないのに、
なんとなく気に入らないとか、周りがそうだからとか、
言われるままにやらさえれるのは嫌だからと言った理由で、
いちいち難癖をつけてくるのが保護者と言うものだ。

真正面から疑問や問題点を問うても、答えはない。
子どもが、なんとなくいやだ〜とか、
だれだれ君が言ってるからいやだ〜とか言っているのと大差ない。

子どもの教育よりもまずは親の教育が必要と感じているのは、
おそらくオレだけではないだろう。

親たちは誰一人発言しようとはしない。
匿名のクレームは得意なのに、顔も名前も表に出しての発言は出来ないらしい。

日頃家庭では子どもに向かって、
「積極的に行動しなさい!」とか
「意見があったらちゃんと言いなさい!」とか言ってるだろうに、
こういう場では積極的のせの字もない。
互いに顔を見合うか、下を向いているかのどちらかだ。

そんな保護者の中にヒカルの顔が見えた。
(そうだった。ヒカルもうちのクラスの保護者だった。)
ヒカルは下を向くこともなく、まっすぐにオレの方を見ている。
だからといって、ここで急にオレの方から指名など出来るはずもなかった。

仕方なく、オレは【いつものように】子どもたちに問いかけた。
子どもたちの日常生活の中での問題や悩みを取り上げて授業を進めるのが、
オレのいつものスタイルだ。

普段なら子どもたちは、若菜がいきなり股間を触ってくるのを止めて欲しいだの、
だれだれが掃除のとき、ほうきを貸してくれないだの、
大人から見れば実にくだらない、
しかし子どもたちにとってはとても切実な問題が提起される。

子どもたちの世界には、大人には理解できない、
子どもたちなりの様々な事情や暗黙のルール、
そして本音と建て前、忖度だって存在する。


いつもはおれがおれが、わたしがわたしが、のハイハイ攻勢が始まるのだが、
今日に限って子どもたちの手が全く挙がらない。
子どもたちまでが事なかれ主義に徹しているようだ。

【わたしたちのクラスには何の問題などありません。みんな仲良く過ごしています。
 わたしも先生に叱られることなど全くありませんから、
 お父様お母様、安心してください。】とでもいうアピールをしているつもりだろうか。

麗子は?若菜は?
ちくしょう。こいつらも、結局同じ穴の狢か!!

オレは授業を途中で投げ出してやろうかと思ったほどだった。
あえて誰かを指名して、個人的なことを話させれば、
プライバシーの侵害だどうだと後で保護者の総攻撃を食らうだろう。

そういう時は、当事者よりも他の親の方が熱くなるものだ。
ここぞとばかりに正義感を振りかざしてくる親ほど始末に負えない。

さてと、どうするか。

すると、奇跡的に一人の子どもが手を挙げた。
額賀零士だ。
普段はほとんどと言ってもいいほど手を挙げることはない。
指名しても何も言えずに座ってしまうことが多い零士だ。
他の子どもたちもあまりにも意外な零士の挙手に驚いている。

たくさんの保護者の前で恥をかかせることになるのではないかという危惧を感じ、
零士の顔をじっと見た。
零士はオレの目をしっかりと見つめている。
大丈夫だ。
オレは零士を指名した。

零士はゆっくりと立ち上がって、
想像していたよりもはるかにはっきりとした声で言った。

「あの………。ぼくは、おかあさんに、
 いっつも、お前が女の子だったらうちももっと楽に生活ができるんだけどねえ、
 って言われてて、妹はとっても可愛がってもらっているのに、
 なんで、ぼくは、可愛がってもらえないんですか?」

最後の言葉はオレに向けられた言葉ではなかった。
零士は途中から後ろを向き、保護者に向かって問いかけたのだ。

最後の方は少し涙ぐみながらも、言いたいことを言いきった自信に満ちた顔をして、
零士はゆっくりと座った。


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