在った愛のかたち-3
おばあさんには、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえました。
目を開くと、そこは一面に白い花が咲く野原でした。
在るのは蒼い空と白い雲、緑と白の交じった野原におばあさんだけでした。
また、誰かが呼ぶ声が聞こえました。
後ろを振り向くと、息子が、孫が、嫁が、街のみんながおばあさんを呼んでいます。
しかし、その中にあの人がいません。おばあさんの最愛の人がいないのです。
また、違う方向から声が聞こえてきました。
その方向を振り向くと、たった一人、そこに立っていました。
そこには、若かりし頃のおじいさんの姿があったのです。
おじいさんは手を伸ばしておばあさんに語りかけます。
一緒に行こう
おばあさんは迷いました。どちらかを選んだら、もう片方とは永遠に会えない気がしたのです。
たった一瞬の迷い、その時、また光がおばあさんを包み込みました。
おばあさんは必死に手を差しのべました。
おじいさんの姿が光で見えなくなっていく時に、おばあさんは気付きました。
私は………!
教会の窓からはうっすらと夕日が差していました。
おばあさんは目を醒ますと、隣におじいさんがいることに安堵し、おじいさんを起こしました。
しかしいくら声を掛けても、肩を揺すっても、おじいさんは起きませんでした。
おばあさんは気付きました。さっきの夢は、そういう事だったのです。
今、ここを出ればおばあさんは生きることが出来るのでしょう。
最愛の人を失ったことを、幾多の愛に支えられながら。