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THE 変人
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私の居場所-4

瀬奈の足取りは止まらなかった。ゆっくりと足を前に運んだ瀬奈はとうとう崖の先端に立つ。穏やかな海風だ。あの日の台風の日とは異なり、まるで新たな未来を祝福されているように思えた。しかし視線を足元にさげ、遙か下方にある海を見つめると、あの時の恐怖と何ら変わりはなかった。足がすくみ、震える。こんな場所から自分が一度飛び降りた事すら信じられなくなる。瀬奈は視線を戻し振り向き海斗を見つめる。

「危ないからこっちへ来い!頼む…」
海斗の言葉に甘えるかのように優しく海風が背中を押しているように感じる。
「海斗はいつも優しかった。口は悪いけど、一生懸命にリストカットの傷を治してやると言って薬を塗ってくれた時、私を救ってくれるのはこの人しかいない、そう思った。やっばり海斗は私を救ってくれた。私は海斗に巡り合うためにきっと今まで生きてきたんだと思う。私に愛を教えてくれた。幸せを与えてくれた。こんなに人を好きになった事はなかった。海斗への想いが募れば募る程、胸が苦しくなる…。だってそれらが全て報われないのが分かるから…。なら海斗を愛したまま、私は死にたい…」
瀬奈の口から初めて自殺の意思を聞き心臓が壊れそうになる。自分を見つけて欲しいが為に飛び込まずにいたんだと言う確信が形なく崩れ落ちた瞬間であった。瀬奈は死ぬ気だ…、そう確信が変わると、急に瀬奈を説得する自信が無くなってしまった。

「瀬奈!」
「瀬奈ちゃん!」
そこへ息を切らしながら崖を登って来た康平と美香、幸代の姿が現れた。
「お父さん、お母さん、幸代さん…」
死ぬと決めて昨日の夕方に崖の先端に立った時、頭に浮かんだ顔、全ての愛すべき人が揃った。みんなの顔は、決心した自殺を思いとどまろうかなと思わせてくれるだけの力となり瀬奈の目に映った。瀬奈の目から一気に涙が溢れた。
「瀬奈!頼むからこっちに来てくれ!」
「瀬奈、おうちに帰ろ…?」
「瀬奈ちゃん、まだ行ってないカフェあったよね!?行こうよ!」
それぞれの優しさが瀬奈を包み込む。
「みんな…、ごめんなさい…。ごめんなさい…」
泣きじゃくる瀬奈。もしかしたら自殺を思いとどまってくれるかも知れないと海斗は思った。海斗は愛の持つ力の大きさを初めて知った気がする。海斗が親と死別して一人で生きてこられた力の源は両親が与えてくれた愛だ。思い出を一つ一つ思い返し、その時はお節介にしか思わなかった事も、それが自分に対する愛情だったのだと気づけたのも、奇しくも両親がいなくなってしまったからだろう。死んでから気づくのでは遅い。もし瀬奈が死んでしまったら康平と美香がずっと抱えながら生きていかなきゃならない苦しみ。海斗はそんな思いはさせたくなかったし、瀬奈には生きて両親の愛情を感じて欲しい気持ちでいっぱいであった。生きていてこそありがとうと伝えられる。死んでしまえば残るのは後悔だけだ。自分と一緒になるならないはどうでも良かった。瀬奈の人生が続くのならば、それ以上海斗は何も望まない…、そんな気持ちでいっぱいなのであった。


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