ある資産家の夢(2020/01/25)-2
北条の経歴等をざっと聞いた後、莉乃は本題に入った。
「では、ここからは、先日発表された宇宙ステーション内での実験について
お話しを伺います。」
「今回の実験は、私の長年の夢でした。」
北条は感慨深げに言った。
「夢が実現するということで、おめでとうございます。
一体いつ頃からの夢なんでしょうか?」
「ありがとうございます。
この夢は・・・、そうですね・・・、
きっかけは中学生の頃です。
こういうことをしたらどうなるんだろう・・・って。
その後、社会人になってから内容が付け足されて今に至る・・・、
といった感じでしょうか。」
「そうなんですか。
そうなると、本当に長い間の夢ということになりますね。」
「はい。」
「それで、北条さん。
今回の実験は、具体的にはどのような内容なんでしょうか?」
「はい。
一言でお話しすると、
ガンシャです。」
北条はごくあっさりと言った。
「・・・・。
・・・・・・はい?」
莉乃は生中継されていることを忘れて、間抜けな返しをしてしまった。
莉乃が知っているガンシャは一つしかない。
でも、それをこの場で北条が言い出すとは到底思えず、
頭の中が混乱していた。
「あ、これは失礼いたしました。
申し訳ございません。
聞き取れませんでした。
北条さん、もう一度、おっしゃっていただけますか?」
「いいですよ。
ガンシャ、です。」
北条はごく普通に、無造作に言った。
「・・・・。
北条さん、私の不勉強ですみません。
ガンシャというのは、特別な学術用語か何かでしょうか?
あるいは、外国語とか?」
「両方とも違います。
日常会話では使いませんが、
大抵の大人が知っている言葉です。
浅葉さんも、知ってるはずです。」
莉乃は先程頭をよぎった言葉を再び思い浮かべたが、
まだ信じることができなかった。
「あの・・・、すみません。
ガンシャとは、どのような字を書くのでしょうか?」
莉乃は不安げに確認の質問をした。
「顔という字に
発射の射です。
顔射、です。」
北条は指先で空中に文字を書くようにしながら答えた。
* * *