投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「初夜」は四十九日の夜
【その他 官能小説】

「初夜」は四十九日の夜の最初へ 「初夜」は四十九日の夜 0 「初夜」は四十九日の夜 2 「初夜」は四十九日の夜の最後へ

「初夜」は四十九日の夜-1

妻の四十九日の法要が終わった。
町中の小さな小料理屋を借り切って近親者だけで会食し、その場でお開きにした。
私と妻の姉、つまり義姉(あね)の奈美は、タクシーで郊外のマンションへ帰った。
口にしたお酒のせいか、ここ1カ月間の疲れが出たのか、車の中で2人は無言だった。

玄関を開ける。妻のはねるような足音も、キャピキャピした声も、もう聞くことはできない。
静寂の中に取り残される、義姉と私。
私は黒いスーツの上着を脱ぎ、居間のソファに横になった。
隣の和室で、着替えを済ませた義姉が、脱いだばかりの喪服を畳んでいる。

「疲れたのね、芳樹さん。ちゃんと着替えてきたら!。お茶、いれるし…」

義姉の声に促されて、寝室で着替えを済ませ、居間に戻った。
ダイニングからコーヒーのいい香りが漂って来る。

「そっちへ持って行く?、こっちにする?」
「あっ、いくよ、そっちに」

ダイニングルームの灯りをつけ、テーブルについた。テーブルの角をはさんで右隣に、義姉がすわった。
これまで妻が座っていた場所だ。

「うわぁ〜、おいしい。義姉(ねえ)さん、コーヒー、こんなにおいしく感じるの久しぶりだよ」

ひとくち、ふた口啜り、カップを置いた。
義姉は両手をコーヒーカップに添えたまま、視線を落としている。
何か、考え込んでいる。おおよその察しはついている。
意を決したのか、いったん口に運んだカップを受け皿に戻し、義姉が口を開いた。

「ねえ、芳樹さん、はっきりさせなくちゃいけないわよねぇ!。いつまでもダラダラってわけにはいかないわ。四十九日が済んだことだし、この機会を逃すと、言う時期を失ってしまう。だから・・・・」

言いたいことはわかっていた。

(妻方の姓を名乗っているとはいえ、婿養子の縁組をしたわけではない。32歳という若さなんだから、再婚のチャンスはいくらでもある。
妻が死んだ今、今の姓、この家に縛られる理由は、まったくない。だから、家を出ていって構わない。自由にして構わない)

当然、私もこの1カ月、私の将来を気遣う義姉の思いも含め、いろいろ考えを巡らした。
結論は出ていた。
義姉が切り出したのを機に、私もはっきりと思いを伝えるつもりになっていた。
私を真っ直ぐに見据えて、義姉が言った。

「芳樹さん、もういいのよ。この家、出ていっていいわ。自由にして!。芳樹さん、優しいから、私が寂しがるだろうと思って『しばらく一緒にいる』って言うかも知れないけど、私は大丈夫、1人でやっていけるわ。だから心配しないで、自分のことだけ考えて!。ねっ!!」

想像していた通りだった。返事はせず、私はコーヒーを口に運んだ。

「ねえ、芳樹さん、聞いてるの。あなたはまだこれからよ。再婚だってしようと思えば、いくらでも相手はいるはずよ。遠慮しないでいいの!!。死んだ美津子だって許してくれるわ」

カップを置いた。そして、はっきりと言った。義姉には、怒っているように聞こえたかも知れない。


「初夜」は四十九日の夜の最初へ 「初夜」は四十九日の夜 0 「初夜」は四十九日の夜 2 「初夜」は四十九日の夜の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前