お義姉さん、お先にデビューさせて頂きます……安西浪子の突っ走り-4
「どうも叔母御、ありがとうございます。この控えは叔母御のほうで大事に保管して下さいよ。契約を了承したって立派な証なんですから」
梶谷はこの上なく嬉しそうな顔だ。
「何をそんなにニヤついてんのよ」
気持ち悪そうに浪子が睨む。
「叔母御……念のため、もう一度その複写の控え、よく見て貰えますかね。ご自身で確かめたことなんで、文句言えませんよ? 金額のとこ……」
そう言われ、嫌な予感がむくむくと膨れ上がる浪子だった。
字面を追ってみると、間違いはなさそうだ。
八百の数字は、聞いた通り。はっきり印字されていた。
「ん……?」
浪子はハッとした。
「八百……は、八百円!? 何よコレ!」
「あひゃひゃ、うひははははははぁ! やっぱ乳とケツしかねえバカ女だなアンタ! 狙い通り引っかかりやがった。姐さんの五千円も顔負け、大安売り八百円AV女優がご誕生だ! コンビニで一時間バイトしたほうが金になるレベルだな、あっはっはぁ!」
まんまと梶谷の策謀にかかった浪子である。
「てめえっ!!」
血相を変えて腰に手をやったが、そこにあるべき拳銃は梶谷の手中に握られていると気づいた。
「もう遅いよ浪子ちゃ〜ん。契約書ってのはビジネスにおける盃だからな? その重さ、ヤクザ世界に身を置いてるあんたならよく分かるだろ?」
盃という言葉を持ち出すと昔気質の残る人間はぐうの音も出なくなる。浪子は五条会長の実妹で、その夫たる安西もまた旧態依然とした任侠精神の持ち主である。
ドライな感覚の梶谷は、そんなところを突いて巧みに攻め込むのだった。
「まっ、ノーギャラじゃないだけでもよしとするんだな。そこらの欲求不満おばさんと同額の五千円で何でもやらされる姐さんと、そのエロエロ半熟ボディ叩き売り八百円の浪子ちゃん、二人で頑張って七、八億稼ぐこった。五条のおっさんが晴れて保釈の頃には二人ともガバガバまんこヒクつかせたセックスジャンキーになってるだろうよ!」
高笑いしながら梶谷は卓上の受話器を取り、内線で子分を呼んだ。
「お前ら機材持って入ってこい。ムッチムチのエロいタンクトップ刺青女の輪姦デビュー作、早速のクランクインだ!」