お義姉さん、お先にデビューさせて頂きます……安西浪子の突っ走り-3
ペラペラとまくし立てるなかに、さりげなく浪子自尊心をくすぐる褒め殺しを交えている。
明らかにおかしな論理だったが、単純な浪子は殴り込みの気迫を忘れて聞き入っていた。
「ねえ、そうでしょ? 五千円と八百万円です。考えるまでもない簡単な計算じゃないですか」
「で、でも……AVって、知らない人とエッチするんでしょ」
「安西の叔父貴に気兼ねしてらっしゃるんですか? 叔父貴だって外で女作って結構ご盛んに遊んでるのはご存知でしょう。浮気は男の甲斐性だなんて言葉は古いですよ。今や女性の権利も尊重されるご時世なんですから。叔母御くらいの美人は、もっと自由に性の楽しみを謳歌していい……若い男と遊びまくって、そのエキスでますます綺麗になればいいんですよ。しかもですよ? それを報酬ありの立派な仕事としてやれて、なおかつ姐さんのサポートをも兼ねることになるんですから、悪いことなしじゃねえんですか?」
都合のいいロジックを雨あられと浴びせかける梶谷。
浪子はそれを頷きながら足りない頭に落とし込んで、
「そういうもの……かしら?」
内心ではまんざらでもないと感じたのか、表情を和らげて契約書に目を通し始めた。
「四十歳オーバーの姐さんと比べればかなりソフトな内容になってます。アナルやスカトロまでやれとは書かれてないでしょう? もちろん下の複写で文面が変えてあるなんてことはありません。しっかり確認した上で、サインをお願いします」
いつの間にか署名を「する」のが前提という言い方になっている。
「姐さんが騙されたときとは違います。金額の数字もよく確かめて下さい」
梶谷は念を押した。
額面は八百万円。浪子は正副二枚を見比べて、
「確かに……」
とペンを走らせ始めた。
梶谷は口の端を吊り上げ、大声で笑い出したいのを必死で堪えていた。