お義姉さん、お先にデビューさせて頂きます……安西浪子の突っ走り-2
なおも梶谷は喋り続ける。
「俺はご承知の通り、すっかり帝龍会の犬になってます。しかしまだ山勇会に盃は返しちゃいない……姐さんの件は大谷の絵図通り動かされたが、心の中じゃ申し訳ないって気持ちもあるんです」
押すと見せかけ引いて喰いつかせる心理戦に、
「……というと?」
浪子はまんまと乗った。直情型で単純なのである。
乳と尻に栄養が吸い取られて脳みそにまで回らなかったのかもしれない。
「姐さんの契約はとんでもない安値だ。あれじゃ五条会長の保釈金もままならない。本心を言えば、俺だって檻の中の会長を娑婆に戻したい気持ちはあるんですよ。……そこで相談と言っちゃなんですが、叔母御にもひとつ、姐さんの不利な契約の埋め合わせ代わりに一筆書いちゃ頂けませんか」
そう言って梶谷は複写式の書類をデスクに置いた。
じろりと見下ろした浪子は、顔を真っ赤にして再び銃を向ける。
「こりゃAV出演の契約っ……! 梶谷ぃ! ふざけんじゃないよ!!」
「おっと、同じことを言わせねえで下さいよ。引き金を引けばどうなります? 叔母御が今ここで持つべきなのは、その物騒な代物じゃなくてこっちだ」
一瞬、力が抜けた浪子の手から拳銃をもぎ取った梶谷は、代わりにボールペンを持たせた。
「姐さんに義理立てする叔母御の気持ちは痛いほどよく分かります。騙しうちで不利な条件を飲まされた姐さんに代わって、叔母御が好条件のAV出演をする。それなら立派に姐さんのカタキをとることにもなります」
契約書のからくりを仕組んだ張本人でありながら、梶谷はぬけぬけと言ってのけた。
「これをよく見て下さい。叔母御の出演料は一作八百万です。当初の姐さんの十億には及びもつかねえが、今のAV業界の中じゃ破格の高ギャラですよ。それというのも叔母御のルックスが芸能人顔負け、肉体美もピカイチだからこそです。姐さんが五千円でこき使われるぶん、叔母御がこの高額報酬で埋め合わせて、会長の保釈を実現させるのが一番のやり方なんじゃありませんかね?」